議論を通して質問内容を吟味

新連載

児童生徒の様々な実態や保護者のニーズを把握し、教育活動に反映させる目的で、学校でアンケートを実施する場合がある。だが、設問に回答してもらえば実態が把握できる。という単純なものではない。意味のある調査を効果的に行うためには、調査方法や質問票の作成、分析などについて、よく吟味する必要がある。日ごろの学習効果を確かめたり、学校評価に反映させたり、研究指定校で研究成果をまとめたりするためにも、調査について知っておくことは重要だ。そこで、この校長向け紙面で、文科省の委託研究調査をはじめ様々な調査を中心となって実施したNPO教育研究所(牟田武生理事長)の久玉和昭研究所副理事長に、「効果を高める学校アンケートQ&A」を題して連載してもらう。

- 効果を高める学校アンケート Q&A 教育新聞連載 No.1 -

質問
中学1年の学年主任です。入学して落ち着き始める5月に、生活リズム・習慣についての生徒対象のアンケート調査を実施しようと考えています。生活の状況から、学校で優先的に対応すべき生徒の洗い出し、きめ細かな生徒指導を行いたいと考えています。生徒や保護者に生活リズムを整えることの重要性を打ち出すために、どのようなアンケート項目造りと集計をしたらよいでしょうか。
回答
アンケート調査を行なうときに明確にしておくことは(1)調査の目的(2)調査の対象(3)調査の方法(4)質問票の作成(5)集計・分析の方法等です。アンケート調査を実施するときに一番頭を悩ますのは、(4)質問票の作成(5)集計・分析だと考えるのが普通ですが、むしろ大事なのは(3)調査の方法です。母集団からの偏りないサンプリング(抽出)、高い回収率が、信頼性のある調査の本質です。ただ、学校現場で行なうアンケート調査では、基本的に悉皆調査を行なうことが可能であり、アンケート票の回収もそれほど困難ではないと推察できます。そこで、(4)質問票の作成(5)集計・分析の方法について述べていきます。
  アンケート調査にはある仮説を立ててそれを調査する「仮説検証型」と調査結果からわかったことを検証する「結果検証型」がありますが学校現場で行なう調査はむしろ「混合型」として考えたほうがいいでしょう。まず、「生活リズム」を整えることが生徒にどのような影響を与えるのかを、議論することが必要だと考えます。この議論の過程で質問する内容を大きなジャンルで分けていきます。例えば「学習習慣」「集中力」「体力」「家庭問題」「IT関連」等に分けていきます。そしてそのジャンルの下に、具体的な質問票を作成していきます。質問は生徒の言語理解能力を考慮して漢字、表現も出来るだけわかり易く作成してください。全体で質問数は「性別」「家族構成」などの個人属性の項目も含めて30~40前後、回答時間は15分~20分前後になるように調整してください。また先行調査(内閣府などの青少年に関する実態調査など他の調査)を上手く利用すると分析時に全国標準との比較検討がしやすくなると思います。
  次に分析方法としては、調査人数が100名以上であれば回答数のパーセンテージ表示だけでかなり正確な分析ができますので単純集計、クロス集計で十分でしょう。各調査項目の結果、先行調査などとの比較により色々な角度からの分析を行なってください。例えば「就寝・起床時間」と「学習習慣」とのクロス集計を行い、「就寝・起床時間」が「学習習慣」に与える影響について考察する等、クロス集計を上手く利用して詳しい分析を行なってみてください。分析・考察もやはり徹底的な議論を行い、質問票を作成した時の議論内容との整合性も合わせて議論していくとよいと思います。
  アンケートの結果報告は文書として、保護者、生徒へ配布することが必要です。生徒に配布するときは、現在の生徒の状態像、生活リズムと学習、成長などの意識を明確に理解できるように分析結果を知らせてみたらどうでしょうか。また保護者へは、実態調査からわかった事柄の報告と合わせて今後の学校、学級としての対応をきちんと説明することが大事ではないかと考えます。もちろんプライバシーの保護には十分注意してください。いずれにしても、調査結果は迅速に明確な形で、外部にアピールしてはじめて意味があると思います。調査結果をいろいろな教育現場に利用してください。また毎年一回同様な調査を3年間継続して行なうことで、同学年の中学校における追跡調査が完成することになり、学術的にも貴重なデータとなることと思います。

平成24(2012)年4月2日(月曜日)教育新聞掲載 文責 久玉和昭

効果を高める学校アンケート Q&A 教育新聞連載