規範意識を育てる生徒指導/新しい「教育格差」
規範意識を育てる生徒指導
- 教育新聞 2009年9月7日掲載(※許可を得て転載しています)
平成19年度の文部科学省の調査で生徒間暴力や器物破損などの暴力行為が過去最高を記録した。それでは、子どもたちの規範意識を各学校ではどのように育成したらよいのだろうか。森田洋司大阪樟蔭女子大学学長・大阪市立大学名誉教授によれば、積極的な生徒指導と既存カリキュラムの活用で育成できるという。森田氏は、8月25日に国立オリンピック記念青少年総合センターで実施された第19回教師&専門家のための問題行動研修会で講演し、次のように語った。
生徒指導には問題対応型の消極的な生徒指導と開発型の積極的なものとがある。消極型は、問題に対応するかかわりや事後指導と相談、治療的な対応が主であるのに対して、積極的な生徒指導は、開発的なかかわりや事前指導と相談、成長的なかかわりと主とする。
中学校学習指導要領解説には、「生徒指導は、単なる問題行動への対応という消極的な面にとどまるものではない」とあるが、四半世紀、学校現場では問題対応に追われざるを得なかった面がある。いまあらためて積極的生徒指導の重要性が認識されるべき時に来た。
教育基本法第1条の「教育の目的」は、人格の完成と社会の形成者の育成が規定されている。一方、新しい学習指導要領における道徳教育の4つの観点は、「主として自分自身に関すること」「主として他の人とのかかわりに関すること」「主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること」「主として集団や社会とのかかわりに関すること」だ。このような観点から子どもたちの道徳的な面や豊かな心を育成しなくてはならない。
ここであらためて生徒指導の意義をとらえてみると、まず「生徒指導」は「学習指導と並んで学校教育の車の両輪といえる。片方が一方を支える関係にある。早寝早起き朝ごはんといった基本的な生活習慣を身につけさせることが、学習や学校生活への意欲へと結びついていく。生徒指導は学力を支えるという側面もある。
生徒指導は教育の「機能」という側面もある。生徒指導担当といった特定の教員の活動ではない。中心となって生徒指導を進める教員がほかの教員をコーディネートしていく。その意味では、教員全員が生徒指導担当といえる。
生徒指導は、強化を含めたすべての活動にわたって行われるものでもある。既存の教育課程の科目のあらゆる場面で、指導は可能だ。自然体験や社会体験、強化等の学習中で、例えば、実験や活動の準備をどうするのかを決めたり、実際に実験や活動を行い、後片づけをするといったときに、クラスやグループの一員としての役割をきちんと担うことができるかを見取り、指導する。
これからの日本社会を担う人材を育成するためには、新しい視点に立った教育や生徒指導を進めることが求められている。その視点の1つが「市民性」(シティズンシップ)であり、規範意識はその基盤の1つだ。
市民性教育の目標は、「公共善の実現を目指して当該社会に参画する主体の育成」であり「1人ひとりが社会の一員として参画しながら、どのように自己実現を図り、生きやすい生活を送るか、社会や人々が抱える様々な課題にどのように向き合い、協力し合ってより暮らしやすく活力ある社会づくりに取り組めるかを問うもの」である。
ここでいう「市民性」は、「知識より体からにじみ出てくるようなもの」にしなくてはならない。ヨーロッパの例だが、列車の中で、日本の高校生ぐらいの若者が足を伸ばして座席に座り、にぎやかにしていたときのこと。お年寄りがその車両に入ってくると、若者やちはすっと立ち上がり、他の車両へと移動し、またおしゃべりを続けた。日本人なら、席を譲るか譲るまいか周りの様子をうかがい、それから立ち上がって席を譲ることが多いのではないか。そのようであっては、「市民性」が身についたとはいえない。自然な振る舞いで、集団や社会に求められる自らの役割を果たすものでなくてはならない。
席を譲った後に、ちゃんと座ったか確認するような、譲ったことを称賛されたいがための行動を取るようなものではない。それが「体からにじみ出るような」ということだ。
子どもたちには、学校の教育活動の中で、個々の子どもに役割を持たせ、その活動の中で自己有用感や規範意識を育てていくことが求められている。