北陸中日新聞と朝日新聞の記事にお答えして
なぜ私たちは富山にこだわるのか? 牟田武生
北陸中日新聞と朝日新聞の記事がクリックすると読めます。
中日新聞(2月5日付)
http://www.chunichi.co.jp/hokuriku/article/news/CK2009020502000163.html
朝日新聞(2月7日付)
http://mytown.asahi.com/toyama/news.php?k_id=17000000902070003
この2つの記事に誤りはない。事実である。おそらく寮長を取材し、社会的に意義のあるNPOが経営的に困窮状態に陥り、倒産や撤退させてはならないという応援で書いてくれたのだと思う。暖かい支援でありがたいことだと思う。しかし、主宰者としては経営者として失格の烙印を押されたのでないかと、情けない複雑な心境だ。偽りのないコメントで返事したい。
経営コンサルタントに相談すると「経営的にはもう限界でしょう」と言う。確かに30余年非営利活動をしていて財政的にこれほど厳しい状況に立たされたことはなかった。営利目的ならば、利益が上がらないならその地域から撤退し、利益が見込めそうな地域に移転すれば済む。
なぜ、富山県でも最も田舎の東部地域で始めてしまったのだろうと後悔も時々する。大変条件が良い契約を提示、誘致してくれる自治体があったのに、何故、地盤も知合いも殆んどない富山で初めてしまったのだろうか。リサーチが甘いと指摘を受ける時もある。
やはり、無理だったのではないだろうか。このまま続ければ破産は間違いない。理念やこれからの黒部のことを考え、旧ホールサムインを購入する資金を、おそらく日本でも始めてNPOに巨額の融資してくれた北陸銀行には申し訳ないが、保養所はユースホステルにでもし、若者の自立支援としての機能は、この問題に対して行政で最も進んでいる横浜市に戻ることも考えよう。
なぜ、富山で始めたのか?
その前にどうして、私が不登校やひきこもり、ニートの若者の自立支援にこだわるのかから考えなければならない。
ひきこもりは不登校から継続して起きるものが多いが学校は卒業したが、就職活動や浪人からも起こるし出社拒否からも起る。原因は本人自身や家族関係によるものもあるが、学校や職場が原因のものもあり、様々な問題が複雑に絡み合う複合的な原因が多い。世界的にみても、日本と韓国にしかないので、社会環境や家族環境が大きな原因になっていることは間違いない。
ひきこもりの人は100万人といわれる。現在、多くの人は家族の扶養の元で暮らしている。その人達が高齢化すると同時に扶養者も高齢化が進む。現在の年金制度は仕事をしている現役組が年金組を支える仕組みだ。今後、少子高齢化が進むと年金が維持できなくなり、年金が減額される可能性がある。そうなると夫婦2人はようやく暮らせるが、ひきこもりの子どもの扶養分はない。
ひきこもりの子を世帯分離し生活保護に廻すことが考えられる。そうなると一人年間150万円はかかる。財源として、約1兆5000億円かかる。それ以外にひきこもりが長引くと何らかの精神的な症状が起きることが多いので医療負担が国にかかる。トヨタ自動車が最好調時の利益が2兆円だった。それが毎年かかるようになる。
その人たちが働き税金を逆に納めだすと、単純に考えても倍の4兆円も違いが出てくる。しかし、不登校、ひきこもりは比較的豊かな世帯に起り、毎年増加傾向を示していると言われるが、今後はさらに増える可能性がある調査が東京の板橋区で明らかになってきている。
東京都北区で生活保護の家庭に不登校が増えて来ている話を毎日新聞社山本紀子記者に昨年6月に宇奈月まで取材に来た時に話した内容を1年間取材し、最近記事としてまとめてくれた。
生活保護世帯に不登校が多いという統計記事
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090130k0000m040132000c.html
大都市部ではそれらの負担を考えるようになり、少しずつ、ひきこもりへの対応や支援団体に補助や支援活動を行い始めている。しかし、地方行政はそれらの意識がまだまったくない。
なぜ、富山で
平成10年、不登校の児童生徒が10万人を超え、文部省は今までの不登校施策は有効だったのか、また、不登校の児童生徒はその後、どのような人生を送っているのか。文部省として今後どのような施策をしたらよいのかを調べるために、不登校児童生徒の追跡調査を行うことになった。対象として選ばれたのが、平成5年3月に中学校卒業した不登校生徒2万6千人の5年後の二十歳になった時を調査しようとするものだった。
文部省 不登校追跡調査については
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t20010912001/t20010912001.html
追跡調査の委員の一人になった私は膨大なアンケート調査を終え、最後の聴き取り調査を行った。本人からの聞き取り調査をして、不登校への対応も都市と地方では対応に大きな温度差があることが次第に分かってきた。特に卒業後の対策が地方では行政と民間の支援もなく、ひきこもらずを得なかった事実が分かってきた。
その中で北陸地方と東北地方が特にひどい状況だった。その中でも、特に富山県は生活上は豊かだが不登校やひきこもりは身内の恥と感じるのか、また、本人が悪いことをするわけでもないので身内で庇うという名目で、家の闇(懐)の中に囲い込んで長期化してしまう事例が多いことが分かってきた。
実際に臨床で見る限り、男尊女卑的傾向が強く残り、父親は駄目な奴と自分の期待に答えられないひきこもりの子どもを切り捨て、母親は仕事をしながら家事をこなし、姑を気にしながらも、この子を面倒みなければ、この子は生きて行けないと思い込み、子の面倒をみることが生甲斐になっている母親と子どもの共依存があることが分かってきた。この仕組みがひきこもりを長引かせる大きな原因になっていることがわかってきた。
国の委員になり施策を考えたり、マスコミ向けのコメントを出す時に、私は今まで東京や横浜の大都市しか住んだことがなく、その感覚で物事を考えていた。それらのヒヤリングで日本人の大部分の人は地方に住んでいる。もっと、地方に住んでいる人の視点で考えないと大変な間違いを起すことに気がついた。
不登校の問題に30余年取組んできた私は心の問題だけでなく、義務教育課程での除籍の問題、内申書もなく出席数もない子の普通高校入学の問題に取組み成果を上げてきた自負がある。少子化の現在はこの問題は解決したと思っているが、ひきこもりの長期化や不況から来る就労問題が不登校ひきこもり経験者にとって、自立への大きな障壁になっていることがわかって来た。
困難が伴う富山県でこの問題に取組み成功すれば、全国のモデル事業になり、不登校、ひきこもり、ニート問題解決の糸口が見えてくるのではないかと思った。
そのためには、様々な成功体験が少ない彼らにとって、一番必要なことは様々な職種の就労体験が出来るところだった。幸いなことに黒部はその条件に当てはまり、私の理念を理解してくれた北日本タスクの社長安藤建二氏と四十物昆布社長四十物直之氏が絶大なる力を貸してくれた。
この両氏や北陸銀行宇奈月支店の三上支店長はじめ、ニューオータニリゾートの平井社長や就労体験を受け入れてくれている会社や団体の誠意を裏切るわけにはいかない。地を張っても頑張らなければならない。
でも、20数年暮らしても「どうせ、旅の人でしょ」と、身内扱いはして貰えない風土が色濃く残るこの地で風穴が開けられるか正念場の5年目を向える。厚生労働省の若年者就労支援は平成22年3月末で終わる。それまでに実績を残さないと国はこの事業から手を引き、本人及び家族の責任にする可能性が高い。
最後に、富山県で中学時に不登校になり、県内のあらゆる施設をたらい回しにされ、私のところに来た時は、精神疾患もないのに投薬を受け、半病人状態で心身ともにボロボロになっていた23歳の娘さんから来た手紙の一部を紹介してペンを置きたい。
前略、牟田武生先生、久玉先生、教育研究所関係者様
前書 略
不登校の子をはじめ、世の中の沢山の人々は、教研を必要としています。教研に助けを求める子ども、大人、保護者はきっと沢山います。私も、不登校からずるずる大人のひきこもりになって、どうしようもない人間でしたが、牟田先生、寮長に教研宇奈月塾スタッフの方々に、自分と同じ立場のひきこもりの方々に、つまり教研の方々に助けられて社会復帰をして今は社会人として、自分だけの世界から世に戻っています。
後略
2009,1,25
彼女は現在正社員として働いている。