高校中退を思い留ませるため
- 不登校引きこもり Q&A 教育新聞連載 No.4 -
Q 全日制の公立高校の教員です。2年の男子生徒のことです。家庭の経済的な問題があり、学校に出てくる回数が急に減り、学校へ出て来ても本人は疲れ切った様子です。年間の取得単位数が少ないため、進級できない可能性は現在の段階ですでに大きくなっています。本人は高校を中退してもよいと言っています。しかし、今の就職難の状況からして、ニートになる可能性は大きく、心配です。本人に中退後してしまったら就職難であることを伝えて何とか思いとどまらせようと考えています。よいアドバイスをお願いします。
A 最近、経済的理由から高等学校を中退してしまうケースが増えています。これは本人にとっても、最小不幸社会を目指す政府民主党にとっても不幸な結果としか言いようがありません。長引く不況によるデフレ社会に入り、40代でもリストラ対象になってしまう嫌な時代になって来ました。
日本は他の先進国に比べ、教育費が非常に高く、子どもが義務教育課程を終え、経済的な負担がかかる高等学校、専門学校、大学等に進学する時期に保護者は40代から50代になります。子どもの教育費以外に、自分の親の扶養や介護が始まる時期にもあたり、二重の負担を背負うことになります。
ほとんどの勤労者が終身雇用、年功序列の時代は、保護者が、この年齢に達すると、その人にとって最も収入が多くなる時期と重なっていたので、多少の負担感があっても、多くの人は、子どもの教育費を払えない状況にまで追い詰められていませんでした。 しかし、バブル経済崩壊後は、経済状況は一転し、経済的な負担の多い年齢でも、リストラされ、非正規労働で働く人も多くなってきています。
不況の中、仕事も中年になると、なかなか、見つからず、仕方がなく、家族の生活を支えるために、派遣会社に登録し、非正規社員になると、最低賃金に近い時給で働かされることもあります。もし、住宅ローンでも抱えていたら、子どもの授業料どころの騒ぎではなくなってしまいます。
そこで、民主党政府は平成22年4月から、家庭の状況にかかわらず、全ての意志ある高校生等が安心して勉学に打ち込める社会をつくるため、国の費用により、国立・私立高校等の生徒の授業料に充てる高等学校等就学支援金を創設し、家庭の教育費の負担を軽減化しました。高等学校授業料の実質無料化です。
この相談ケースも、全日制の公立高校なので、勿論、この対象になります。ですから、当該生徒にも授業料の請求は行われていないはずです。しかし、高校に通う場合、授業料以外にも、教科書代等別途費用がかかります。
その費用に関しては授業料の無償化以外に世帯所得収入に応じて、「就学支援金」が支払われます。対象となる学校に在学する生徒に対し年収250万未満程度の世帯の生徒は、月額9,900円(年額118,800円)、年収250万以上350万未満程度の生徒は、月額4,950円(年額59,400円)加算を限度として支給されます。ですから、経済的な問題は緩和してきていると思います。これは3年間とありますので、単位取得が上手くいかず、4年目に入ると、免除はなくなります。また、高校を卒業している生徒が再入学している場合は適応されません。
生徒と保護者に授業料の無償化、就学支援金、欠格条件等を充分に説明して上げましょう。経済的な心配をしないで学べる環境を本人のために作って上げることが大切です。詳しくは各教育委員会又は文部科学省初等中等局財務課子負う高就学支援室にお問い合わせください。
本人がやりたいことが在学中にわかり、努力すれば、その道のプロになる可能性が高く、昔は中学卒業した時点で修業に入る職業で、高校を卒業した時点では、才能の伸びが鈍化し、すでに、時遅しになる専門的な職人の道への進路が決まり、その道に進みたい場合を積極的な中退として評価できます。
しかし、それ以外の場合は、高校中退は中学卒業として扱われてしまいます。専門的な技術を持っている場合以外は、単純労働の非正規な仕事やアルバイトしかありません。特殊な技術の習得がない場合以外は、40代になって、無業者になる可能性もあることを説明し、実際にハローワーク等で仕事探しを行い、現実を肌で感じさせることも大切です。
平成22(2010)年9月 教育新聞掲載 文責 牟田武生