不登校-その時、親はどう関わるか

V. 母親にできること

子どもが不登校になった。まず、「あわてない」ことが大切です。必ず解決の道はあります。母親に求められることはホット&クールです。子どもにはホット=暖かく接し、事態にはクールな、冷静沈着さが求められます。そのことについてお話をしていきましょう。

退行は0歳から6歳位までの一次成長期に獲得出来なかった発達課題のやり直しを意味しています。人間は生まれた時の感情として、快と不快を持って産まれてきます。言葉をまだ話せない赤ちゃんは具合が悪い時、気分が優れない時、寒い時、暑い時、お腹が空いた時に不快を訴えます。すなわち不快は命を守るための叫びです。

反対に体の調子が良い時、気分が良い時、室温がちょうど良い時、喉の渇きもなく、お腹が空いていない時にはご機嫌でニコニコしています。快と不快以外の感情は、ふつう育ててくれる母親の気持ちや気分を赤ちゃんに投影同一視させながらすり込まれていきます。母親が怒ると怒りの感情を覚え、うれしいと感じれば、うれしいという感情を読み取り自分の感情として刷り込み、感情を分化させ、情緒を安定させていきます。勿論、完全な母親なんて存在しません。母親も未熟な分を残しています。ですから、完全に感情を分化させ、情緒が安定した子どもはおりません。ふつう子どもはどこか歪なところ、不完全なところを残して思春期に入ります。思春期とはおおよそ10歳から18歳位までです。この時期を二次成長期とも呼んでいます。子どもから大人に心身共に変化する時期です。思春期に学校に行きたいけれど行けないで、苦しんでいるひきこもりを伴う不登校の子どもの場合は、不登校からくる挫折感も伴います。そのため、二次成長の思春期でも、自分の情緒を安定させるために一次成長に戻り、発達課題のやり直しのために退行を起こすのです。退行は、例え15歳の思春期の中学3年生でも精神的に母親独占しようと、甘えたり、拗ねたり、幼稚なことで困らせたりさせて、母親が自分のことをどう思っているのか、母親におきる感情を確かめ、自分の気持ちとのすり合わせを行い、情緒を安定させていきます。これらの行動はちょうど2~4歳児がとるような仕草なので別名「幼児もどり」とも呼ばれています。ただ違うことは、3歳になったり、15歳なったりすることです。ある母親が退行は子どもの成長の上では大切な行動なので、1日中、幼児に接するような対応をしたところ、子どもは「俺をお前は馬鹿にする気か!」と大変激怒したそうです。ですから、基本は子どもが求めたら応じることです。退行は生理的に母親を求める行動ですので、拒否をしたり、上手に対応出来ないと、家庭内暴力が起きたり、母子の関係がおかしくなって、口もきかなくなり、完全に自室にひきこもってしまったりします。しかし、母親にとって、この上手に対応することが極めて難しいのです。たとえば15歳の子を3歳の子どもに接するようにと言われても、3歳の子どもには自然と母性本能で何の抵抗もなく接することは出来ますが、15歳の子どもには母性本能が起こりにくいので自然には出来ません。仕方がなく演じてやると、子どもは母親の心の奥底にある感情を本能的に読み取ろうとするので、すぐに母親が演じていることを見抜いてしまうのです。上手くやろうとせずに次のことを大切にしてください。

  • 子どもが嫌がらせのためにやっているのではなく、心から母親を求めて行動していることを理解しましょう。母親を愛していなければ求めないわけです。
  • 「そばにいてほしい」「話を聞いてほしい」「体を揉んでほしい」等の求めに対して心から接し、応じてあげましょう。
  • 話を一生懸命聞いてあげ、本人の言葉を否定したり、必要以上に励ましたりしないようにしましょう。
  • 子どもは考えがまとまらず、優柔不断になっていることが多いのですが、母親が友人関係や学校のこと等、子どものことについて、判断したり、結論を出したりしない。もしも、判断や結論を求められたら「お母さんなら、こう思うなぁ」程度にしておきましょう。
  • 退行は子どもが満足出来たり、情緒が安定し、精神的に落ち着いて来るとなくなります。しかし、得られないと何時までも続くことがあります。
  • 最後に、退行を起こしている子どもを抱えると、お母さん自身にストレスがかかるのでストレスを上手に発散するように心がけてください。

退行を完全にやり終えた子どもは私の30余年のカウンセリングの中では、二度と不登校を起こしたり、出社拒否になったりはしませんでした。なぜならば、再登校しても、以前のように、他人との感情交流に不自然さがなくなるからです。また、たとえ、感情の共有化が出来なくても、在りのままの自分でも良いことに気がつくからです。