ゾンビは去らねばならないのか?

NPO法人教育研究所 所長 牟田 武生

平成17年度 合宿形式による集団生活の中での生活訓練、労働体験等を通じ、ニート等の若者を対象に、職業人、社会人として必要な基本的能力の獲得、勤労観の醸成を図るプログラムとして「若者自立 塾」始まる。
実施団体:28団体(平成年度)
事業実績:2800名(累計)卒塾後6ケ月経過後の就労率:約61%
平成21年11月事業仕分で若者自立塾廃止決定

厚生労働省職業能力開発局の努力によって
平成22年4月基金訓練による合宿型若者自立プログラム開始
平成23年3月末を持って、再仕分けによって廃止決定。

なお、基金訓練は平成23年9月まで、その後、求職者支援制度創設後、その要件を満たす訓練機関が、ニート等であった若者を含む受講要件を満たす者を対象に、生活訓練以外の座学、実習のプログラムを実施することが可能。

なぜ、私が共同生活による生活訓練に拘るのか。

背景1(子どもを取り巻く環境) ・少子高齢化の中で特殊出生率は1.3(2010)厚生労働省調べ
・世帯構成別25%は単身家族、75%は一般家庭(家族構成人数2.60)(2009)厚生労働省調べ
保護者の労働時間、日本 年間2000時間+サービス残業、有給休暇年間10日~、
米国、年間2000時間、有給休暇20日~欧州(平均)年間1500時間、有給休暇20日~
ライフワークバランス(生活と仕事の調和)の推進が進まず(日本)

・プライバタイゼーション(私事化優先)の意識が浸透(日本)
・シチズンシップ教育進まず
・インクルージョン(包摂社会)意識がまだ低い

少子化社会は家族の社会からの孤立を招き、家族内コミュニケーションも減少している。両親が共働きで家族の接触(会話や共通の時間)が他の国に比べるとすくない。ひとり一人の孤立が進む。テレビ、ゲーム、マンガ、インターネット等のひとり遊びに没頭する若者を作り出す遠因。
また、自営業者の数は平成元年896万から平成607万と減少している。(労働力調査)自営から法人に変化したわけでもない。(中小企業白書)これが地域産業の低下の主要因になっている。また、プライバタイゼーション(私事化)が進み、隣近所の人との結び付きが極めて薄くなった。

その結果、子どもや若者の人間関係力・社会性・コミュニケーション能力の低下を招く大きな要因になった。

背景2(働きたくても働く場も能力もない若者) 産業構造の変化によって、新卒の若者の80%弱が第3次産業に就職していくが、サービス業は専門的な知識の他に、人間関係力やコミュニケーション能力が高くないとできない。また、同年齢者の56%が短大や大学に進学するが、ホワイトカラーの仕事は社会全体で考えても20%もない。
内実は高学歴低学力(山崎正和談、読売新聞)

背景3(経済構造の大きな変化) 前提として、学校教育は人格、能力の両面から考えても、未完成のまま卒業し、社会人となって職業的な自立を通して成長していく。 ・以前の日本の雇用環境は新卒者を一括採用し、企業で社会人としての研修を通して成長し、終身雇用制度、年功序列制によって雇用は成り立った。(高度経済成長を下支え) しかし、バブル崩壊後は企業に経済的な余裕がなくなるとともに、雇用もグローバル化し、即戦力が求められるようになった。経験のない若者は雇用の場では弱者になった。

そのような若者を自立させるのは家庭の力だけではなく、社会(公)による若者を 社会人にさせるための支援が必要である。

若者が足りないもの
・人間関係能力
・労働観
・コミュニケーション能力
・経験(様々な職種の就労体験)
これらは家に居たのでは身に着かない。

そのためアメリカでは、高校中退者向けのジョブコアや北欧から始まったエフタスコーレ等の共同生活の寮で上記のものを学ぶシステムがある。これは若者を社会的に自立させるのは国の役割の一部であるという包摂する考えから来ている。
多くの先進国では、学校教育から社会人へスムーズに移行するためのシステムを持っているが、日本では子どもを大人にさせるのは親の役割であるという根強い考えが国にある。
しかし、今日の社会構造から考えて、若者をニートや二次的なひきこもりにさせるのは、日本の社会システムがグローバル化の社会の変化に対応できていない不備にもある。
厚生労働省がはじめた「若者自立塾等」の合宿形式による集団生活の中での生活訓練、労働体験はそれらの日本的解決策の先駆的な事例であったが、平成23年末で幕を閉じた。
基金訓練に移行した後は、訓練費だけではなく生活費も支給されたので、ニートやひきこもりの若者だけではなく、児童養護施設を卒業した子、触法青年、生活保護家庭の子、低所得家庭の子等の社会的な弱者の子らの受け皿でもあり、自立の場でもあったのに残念で仕方がない。それに変わるシステムの検討はなされていない。