つんでれママ(1)

- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.38 -

 他人の前ではツンツン、二人きりになるとデレデレー、態度を豹変させる女を「つんでれ」と若い人はいうらしい。

 「先生聞いてください。うちの子は中学の時に不登校になり、不登校状態のまま、サポート校に入学しましたが、すぐに行けなくなりました。本人の希望で大検を取り大学にも入りました。でも、やっぱり駄目なのです。今、ニートっていうのですか。働こうともしないのです」50代の母親はいう。
 「息子さんはお幾つですか」
 「今年28歳になります」
 「家で何をしているのですか」
 「インターネットでゲームばかりやって、自分の用事がある時だけ外出しますけれど・・・」
 「昼夜逆転の生活ですか」
 「はい、昼過ぎに起きてきます。うちの子は怠け者です。先生、どうしたらいいのですか」
 「父親はどうしてますか」
 「仕事、仕事と言って何もしてくれません」

 数日後、貫禄からして、いかにも役員を地でいくような60歳越した父親がカウンセリングに見えた。そしていきなり自分から名刺を私に差し出した。時々、自分から名刺を出す人がいるが、皆、決まって社会的地位が高い人だ。私にして見れば社会的地位が在っても、なくても関係ない、問題はどんな父親をやっているかいなかだ。個人カウンセリングなんて100%私的な場だ。そこに公的な立場を持ち込もうとする人は肩書きがないと生きれない人なのかもしれない。その父親の肩書きも立派だった。
 開口一番「子育てのことは全部家内に任せているからわかりません」という。
 「お父さんを責めているのではありません。息子さんだって、今の生き方では楽しいはずありません。どうしたら良いか一緒に考えましょう」
 「はぁ……」まったく自信がない様子である。この人、会社では自分の欠点をなに一つみせずに相手を責めて攻めまくり、論破するタイプの人だろうに家庭のこととなるとカラキシ元気がない。

 しばらく沈黙の後、「息子は一人っ子です。実は家内と息子の間に入ることができないのです。むこうは連合艦隊のようです」
 「連合艦隊…古い言葉ですね」
 「そう、支えあっているのです」
 「何のことか、私には良く分かりませんが」
 「良く分かりませんが共依存って言葉ありますか。そうとしか思えません」と肩を落とし、大きな身体をして蚊の鳴くような小さな声で言う。
 「母親と28歳になる息子さんが共依存なのですか・・・・」
 「はい、妻はなんにもしない息子の身の回りの世話から、心配ごとまで全てに関わろうとするのです。私が自分でやらせなさいと注意すると、私がいないと彼は困るのです。と言い切ります。息子は息子で妻に全てを遣らせて、好きなゲームばっかりやって過ごしています。」と力なく答える。
 「でも、奥さんは私の前では怠け者で困る。自立させるために自立塾に行かせたいとおつしゃっていましたけれど」
 「そうなのです。他人の前では彼に厳しいのですが・・・・」
 「息子さんは自分の思うように母親が動かないと暴言を吐いたり、暴力を振るいますか」
 「妻が息子の体が心配で野菜を中心したメニューを出した時、俺は馬ではない。ステーキかうなぎの蒲焼はないのか、早く作れ、と言って、妻が『ない』と答えると大暴れするそうです」
 「私は母親が息子の暴力を恐れて奴隷のように従っているかと思い。尋ねると、学歴も何にもない息子が可哀相で仕方がないというのです。」

文責 牟田武生