おとなになれない男(2)

- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.34 -

 「赤ちゃんと無意識に張り合う夫は何を私に求めて結婚したのだろうか。私はそんな夫の心を満たすことが出来るのか」
 今、赤ちゃんを育てることに精一杯の咲子には全く自信がなかった。実家の母親に相談してみても、母は「日本の男なんって、セックスがともなう母性を求めてみんな結婚するのよ。子どもが二人になったと思えば良いのよ」と言う。

 『セックスがともなう母性とは』夫にとって自分の癒しを求めての結婚だったのか。勿論、自分も同情して結婚したのだけれども、本当は夫の愛情に支えられ幸せな気持ちで暮らしたかった。

 主人は自分の心の中に悪魔がいると告白した後、赤ちゃんが眠り、二人きりになると、幼少の時に父親から受けた数々の虐待のことを何回も繰り返し話し始め、聞くのが辛くなった咲子が「大変だったね」と言い頭を撫ぜてやると、話を止めるが膝に顔を擦り付け涙を流すなど、幼児に見られる仕草が多くなった。また「そんな小さなこと、いつまでも気にしていたら、大変よ」とか「私も疲れているから、明日にして」と言うものなら「お前は何もわかっていない」と怒鳴り散らすのだった。

 「先生、私はどうしたらよいのでしょうか。母はそんな男、大人ではないから頼りにならない。子どもが小さい時に離婚し、一緒に戻ってらっしゃいと言うけれど、私は主人がかわいそうで、とてもそんな気持ちになれません。どうしたらよいのでしょうか」と咲子は困惑の表情を浮かべて話す。

 「父親に受けた虐待の話を聞いて、あなたはかわいそうと思う以外、どんな気持ちになりますか」
 「私の親はお酒を飲んでも陽気になるだけで、まして、虐待なんて考えたこともありませんでした。最初は実父がそんなことをするなんてと思い信じられませんでした。主人の母にたしかめ、嘘ではないことがわかり、同情し、何とかしてあげたいと思ったのですけど……。」

 「赤ちゃんが生れると張り合うようになったのですね」
 「主人の話を聞いていると、両親とは離れて暮らしている今でも、親を常に意識し支配されている感じがします。自分の人生なのに自分が主人公になっていない感じがするのです」

 「主人公になっていないとはどういう事ですか」
 「大人になっても、親に精神的に支配されコントロールされている感じがするのです」
 「親子関係が30半ばを過ぎても、母親とは親も子も精神的に自立しないで共に依存しあい。父親とは隷属支配の儘のようなんです。幼少の時期に虐待を受けると、心に傷を負いトラウマになって時間が止まり成長できないことがあるのでしょうか。主人も苦しんでいますから、私ができることなら何でもしてあげたいのです。それでも変わらないなら、実家の母が言うように、この結婚は諦めます。先生、助けてください」

文責 牟田武生