メール依存の女(3)

- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.31 -

 「脳内セックスですか。確かに、最後は脳で快感を感知するけれどもねぇ・・・」と私が不可解な顔をして答えた。

 「先生、主人とセックスレスになったのは、子どもが生まれてからなんですが、お互いに仕事が大変忙しくなって、ふたりで過ごすゆっくりとした時間が持てなくなってしまったのです。そのうち、お互いの体調を気遣っているうちにしなくなってしまったのです」
 「それで寂しかったのですか」
 「寂しいというよりも別になければなくても良いのです。夫婦仲は悪くないし、とっても上手くいっていたから気にしなかったのです。ただ、いつも時間に追われ、仕事柄、気を使うことが多いので、ちょっと暇なときにストレスの発散のつもりでメールをしだしたのです。そしたら、欲求不満だったのかしら、どんどん過激になってしまって・・・」

 「仮想現実の彼とはメールだけの関係ですよね」
 「勿論そうです。彼は会いたいと言いますが、お断りしています」

 「どうしてですが、ご主人に悪いと思ってですか」
 「そんな倫理的なものではございません。実際のセックスは援助交際以外、相手とコミュニケーションを重ねていかなければ成立しないし、セックス後も色々、めんどうなことが起きますよね。そんなことは煩わしくてとてもできません。その点、サイバーセックスは決まった相手ですが、お互いにどこの誰だかわからないし、ストレスは発散できるし、時間がお互いに合えばいつでもできます」

 「ご主人とのセックスレスがなくなれば、サイバーセックスをしなくなるのではないでしょうか。そのためには夫婦だけで過ごす時間が必要ですよね」
 「セックスレスになると夫婦生活でも気を遣いながら、コミュケーションをしていかなければ出来ません。そんなのめんどくさいです。あたり障りのないコミュケーションで上手くいっているならば、主人とはそれだけで十分です。もう子どももいるし、実は、私、現実のセックスはどうでも良いのです。サイバーセックスの方が自分の都合で、どうにでもコントロールできるから良いのです」と、困惑な表情を浮かべながらさらっと言う。

 「現実社会のセックスは生身の相手がいて、コミュケーションを図らなければならないから、めんどくさい。その点、仮想現実では自分の都合を優先できるということですか。男の立場で考えると、相手の女性を口説き落とす過程のコミュケーションに醍醐味があるし、その結果のセックスだって、愛情表現のコミュケーションの一つだと思うのですが」

 「人間が生きていくということは、先生のおっしゃるように本当は泥臭いというか、ドロドロしていると思うのですけれど、そういう気持ちにどうしてもなれないのです。表面的な爽やかさや華やかさに惹かれてしまい。廻りの人との人間関係もそうなってしまうのです。きっと、私の場合、主人や子どもとの関係もそうなっているのでしょうね」

文責 牟田武生