メール依存の女(1)

- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.29 -

 先日、ある大手民間放送局の取締役秘書として働く女性がカウンセリングに見えた。その女性はとても美しく30代半ばとはとても思えない。独身の女性の方がカウンセリングに来ること自体大変めずらしいことだが、話を聞いてみると、すでに結婚していて私立小学校に通うお子さんもいるという。

 容貌からはとても母親とは信じがたく、自分の目を疑った。ご主人は5歳年上で大手某商事会社のサラリーマンをしている。海外出張も多く、自分も忙しいので、すれ違い夫婦だとおっしゃる。現在は東京の実家に二世代住宅を親に建てて貰い住んでいる。
 子育てをやってはいるが、自分も主人も仕事に忙しく、祖父母が子育てサポーターをやっている。そのために、お母さんの匂いがしないのだ。

 「母親くさいひとよりも、いつも身奇麗にして現実社会に接点があった方が、自分は、貴女のことをいつまでも好きでいられる。すれ違い夫婦だから、家で、たまに会う時も夫婦というより恋人同士の方が、二人で素敵な時間が過ごせる」と彼(主人)は言うし、自分にとっても、たまに彼と一緒にいる時、夫婦だけど、好きでなくなったら別れるかもしれないという緊張感がどこかにあり、いつも新鮮な気持ちで接することができるから良いという。

 放送局の取締役秘書の仕事も華やかであり、役員のスケジュール調整や時間管理も忙しく気が抜けないが、仕事は楽しく幸せに感じていると言う。
 子どもは彼と考え、大学まであるエスカレーター式の学校に入れた方が受験勉強のことで悩まずにすむと思ったからだ。だが、最近、子どもが時々、理由がなく学校を休むのでカウンセリングに来たという。

 子どもは小学3年の男子で祖父母になつき、他人には「祖父母に良く育てられたためか、穏やかで気持ちの優しい子ですね」と言われる。祖父母と言っても、二人とも60代後半だからまだ若く元気だという。
 その女性は自分がひとりっ子だったから、両親の育て方を見ると自分の小さい頃とダブって見える。だから、母親と言うよりも子どもの姉の感覚に近いのではと真顔で言う。

 「お子さんはお姉さんではなくて、母親を求めているのではないでしょうか?」

 「そんなことありません。学校から帰宅すると、祖父母の家に行き、おやつをご馳走になり少し休む。そしてピアノや学習塾から帰って、大好きな祖父母と3人で夕食を食べ、後片付けのお手伝いをやる。祖父母の家でお風呂に入って宿題や学校の勉強し、二階の自分の部屋に戻って寝る。朝食は彼が帰宅していれば親子3人で取ります。息子にとって母親がふたりいるようなものです」

 翌週、女性は小3の息子を連れてカウンセリング見えた。子どもと二人で話していると、自分の耳を疑るようなことを子どもが言い出した。
 「僕が寝ていない時間にお母さんは家に帰って来るのは、週に1,2回だけれども、たまに早く帰って来ても、お父さんが出張でいない日は、パソコンでメールしている。外に出ても携帯でメール。僕が話かけても、ウン、ウンと頷くだけで答えは返ってこない。ツマラナイ」と言う。

文責 牟田武生