「性逆転の親達」(2)
- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.28 -
娘の話を聞き、父親は登校刺激をする母親にそんなことしたら、かえって状況が悪くなる。娘の気持ちをしっかりと聞くことが今は大切なのではと話すが、
「あなたは甘いのよ。そんなことでは学校に戻れない。厳しくしないと社会に出てから甘くなり仕事が出来ない落ちこぼれになってしまう。現実社会の厳しさを教える必要がある」と言い、「学校に行かないのならば、家を出て行きなさい」と娘に言う。
娘は母親が仕事から帰ってくると部屋に閉じこもった。
自分の正義感からの行動を否定され、娘は自分が何処かおかしいのではないかと思ったのか、自分はおかしいから病院に行く必要があるのではないのか、こんなおかしい子は父親に見捨てられるのではないかなどの言葉による確認行為が続いた後、幼い子が取るような仕草で甘えてくる行動を父親に取るようになった。幼児戻りとしての退行だった。普通は母親に対して取る行動を父親にとる娘をどう受け止めて良いか幸夫は分からなかった。
最近、似たような事例が増えてきている。元々、母性性とか父性性は性別によって決まるものではない。女だから母性性、男だから父性性があると言うものでない。男でも女でも、母性・父性の両方を兼ね備えているから不思議ではないのだが、以前はそんなケースに出会うことはなかった。
このような事例に共通する一定の条件があった。
・ 共働き
・ 子育てに父親が積極的で子煩悩
・ 父親は優しく穏やか、母親が厳しい
・ 子どもの時、父親が良く遊んでくれた
男女雇用機会均等法が成立後、働くことに関して、男女は同権であり、平等な社会に漸くなった。結婚後も仕事をする女性が多くなり、共働きをする家庭が普通になってきた。仕事上では男性、女性の性差はなくなり、意識変革は進みつつある。
しかし、子どもは包み込むような愛情としての母性、関係性を切る・けじめをつける愛情としての父性を感じ、性差の使い分けを自然にする。
赤ちゃんが夜中に具合が悪くなった時に、「ママ…ママ」と呼んで泣きながら介抱されに母親のところに行く。「パパ」と呼び、お父さんのところにはほとんど行かない。
男性でも女性でも母性・父性の両方を兼ね備えていると、言っても多くの場合、性と母性性と父性性は一致することが多い。でも、こころが傷つき母親に癒されないと感じた時、父親の中にある母性性で癒されようとするのかもしれない。そんな現象が今、日本で静かに起こり始めている。
それに気がつかずにいると、不登校はやがて長期間のひきこもりに変わっていく。
経済や時代の変化が激しい時、子どもの心にも負の変化が起きている。 (おわり)
文責 牟田武生