「性逆転の親達」(1)

- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.27 -

 幸夫(仮名45歳)県立高校の教諭をしている。妻は42歳、大手電気メーカーで営業課長をしている。二人には中学生の長女と小学生の長男がいる。
 子どもが小さい時から帰宅時間が決まっている幸夫が子どもを保育園に向かいに行き、帰りに買い物をし、夕飯を作って3人で食べる。深夜に帰宅した妻は夫の作った夕食を食べ、食器洗い機にセットし、乾燥洗濯機を早朝に仕上がるようにセットする。
 幸夫は朝食を作り、一日おきに掃除機をかけ、子どもを保育園に送ってから仕事に行くという暮らしだった。

 几帳面で子煩悩の幸夫は、子ども達が小さい頃、オムツ交換、離乳食つくりなど子育てのほとんどをやっていた。妻は出産を担当し、夫が子育てをするといった分業制に自然になっていった。

 男女同権で平等の時代なので家事や育児は、両方で共同してやれば良いと夫婦とも考えていたので何の矛盾や疑問もなく、時間に余裕のある方がやっていた。
 だが、長女が中学1年生の時、ホームルームでの発言がきっかけになり、執拗ないじめを女子のグループから受け不登校になってしまった。

 母親は「学校に行きなさい」と強く言ったが、自分の部屋にひきこもってしまった。
父親は娘からいじめを受けているという話を以前から聞いていたので、娘には「学校に行きなさい」と言わずに、クラスでのいじめと不登校に対しての学校の取組み姿勢を担任に聞きに行った。

 ところが、学校に行くと担任だけでなく校長もいて
「今回のいじめはお嬢さんのクラス会の発言がきっかけになっており原因はそこにある」という校長の言葉に幸夫は愕然とした。
発言の自由は誰にでもある。
だが、いじめは加害者による犯罪であるという認識が学校側にない。いじめや不登校の原因追及はするが、その問題を解決していこうという姿勢が見られない。

 「学校には頼れない」娘の心の傷や不登校は親子で解決していかなければならないと思った。娘の気持ちに寄り添っていこう。そのためには娘の話を聞こうという気持ちが自然にわいた。
 母親と同じように「学校に行きなさい」と父親にも言われるのではないかと、最初は心を閉ざしていた娘だったが、自分の気持ちをわかろうとする父親の態度を感じ、次第に心を開いていった。

 クラス会での発言内容に言い過ぎがあったことへの反省。また言わずにはいれなかった正義感のないクラスの雰囲気。発言の後の女子グループによる嫌がらせ、担任に訴えても対策どころかチクッタとしてさらに過激になった加害者。いじめを見てみぬふりする教師や傍観者としてのクラスの男子。学校に行けば行くほど人間が信じられなくなったと。娘は涙を流しながら話してくれた。

文責 牟田武生