「EUの青少年問題
- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.26 -
昨年11月末、欧州委員会、日本国外務省、ブリティッシュ・カウンシル、国際交流基金の共催により「青少年に関する日・EUセミナー」が英国ロンドンで行われた。このセミナーは日本及び欧州連合諸国の青少年問題に関する有識者、NGO等民間団体関係者、行政関係者の間で青少年政策についての情報交換と将来の協力のあり方を探る目的で開かれた。セミナーのテーマは「学校外教育(ノンフォーマル教育)を通じた青少年の社会参画」であった。
日本では学校外教育というと、学校教育に批判的な意見かと思う方もいるかもしれないが、そうではない。EU諸国においては、欧州連合条約に基づき学校教育は各国が責任を持って自由に行うが、雇用、社会教育、青少年の交流などはEU全体で共同行動を行うことになっている。民族、文化など固有のものは学校教育で行い国民のアィデンティティは各国の学校教育で培い。経済活動はEU全体で取り組むために、学校外教育(ノンフォーマル教育)は欠かせないものであるという。
EU諸国におけるフォーマルな教育システムは自然科学、社会科学など、教科指導に適するハードであるが、社会に出て必要な様々なスキルや経験を学ぶソフトは提供できない。それらのソフトを提供するのがノンフォーマル教育でありハードとソフトの両面がそろって意味があるとされる。
そして、ノンフォーマル教育とは人間的成長(Personal Development)を支えるユースワークによって若者の活動を支え、就労の可能性(Employability)を高めるための職業教育を行い、市民意識を育て社会への関心や参加意識を強めるシチズンシップ(Citizenship)
としての政治教育の3つのトライアングルが結果的に就労の可能性を向上させている。
また、若年失業者、学校教育中退者、就労の動機付けがなく社会参加や活動をしないニートを如何に社会がインクルージョン(取り込む)で行く方法でもあるという。
さらに若者に対する評価についても就業経験だけでなく、ボランティア活動や社会活動を積極的に認める社会のシステムが認知されることが重要であることがEU側から紹介された。
EU諸国では70年代頃から若年失業者問題が深刻化しており、各国が様々な取り組みを行って来た。最近、日本でもニート問題が大きな社会問題になって来ているのでEU諸国の先駆的な取り組みは大変参考になった。
全体会の後、開かれたセミナーでは、若年者雇用の問題、青少年の問題行動、国際ボランティア活動と交流の3つの分科会が持たれ活発な意見交流がなされた。私は青少年の問題行動についての分科会に参加した。
日本側の発表者の斉藤環氏(精神科医)が非社会的行動としてのひきこもりについて報告したが、南イタリアにしか同じような現象が見られないため、EU諸国から大きな関心がよせられた。子育ての背景や文化の違いによって日本ではひきこもり、欧米ではヤングホームレスになって現れる非社会的問題行動は、麻薬、覚せい剤、凶悪犯罪などの反社会的な問題行動ともに、大きな青少年の問題行動に今後どの国においても、発展することが今回のセミナーで確認出来た。また、日本でノンフォーマル教育を如何に根づかせていくかの課題が見えた。そして、現在、日本で行われているニートに対しての就労体験や相談だけではなく、根本的な問題としての人間的成長・就労の可能性・市民意識の3つのトライアングルを気づかせてくれ、私にとっては大変有意義だった。
EU諸国は多様性に満ちており、日本と単純に比較は出来ないが、青少年問題について共通することも多く、今後交流を深めていけば、もっと有意義なセミナーに発展出来る可能性が大きいセミナーであった。
セミナーの様子は外務省ホームページにも紹介されている。http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/seminar.html
参考文献「青少年問題」第53巻第2号(財)青少年問題研究会2006年2月号
「青少年に関する日・EUセミナーについて」内閣府政策統括官 坂本眞一
文責 牟田武生