「ニート対策・若者自立塾」<3>

- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.23 -

生活を共にする。一見何でもないことだが、兄弟が少なく、核家族の中で育ち、小さい頃から個室を与えられ、忙しい現代社会では食事も家族皆で一緒にとることがなくなったことに慣らされている若者にとって、寮で暮らすことはストレスが溜まる生活でもある。まして、ひきこもりの生活を長くしていた者にとっては地獄のような毎日でもある。そんな若者にとって、3ヶ月の合宿生活は大変長く感じる期間でもある。

最初の1ヶ月は慣れることより、相手に無理に併せ、背伸びしながら人間関係を築こうとする。ありのままの自分でない人を演じるのだから、余計にストレスが蓄積する。若者によっては落ち込んだり、不機嫌になって塞ぎ込んだりして、現実逃避をしようとする。
そんな時、本人の希望によって土日を使い帰省させるが、親子関係が上手くいっている場合は、ストレスを発散して帰ってくる。しかし、多くの場合、かえってストレスをさらに溜め込んで帰ってくる。
「先生、家に帰って偏頭痛がまた起きてしまいました。ひきこもって家にいた時にずっと続いた症状です。私の場合はやはり親子関係の問題が大きいということがわかりました。
現実逃避という逃げ道はもうありません。ストレスと上手に付き合っていかなければなりません。何か、良い方法はありませんか」というようなことを質問してくる若者が多い。
 そんな時、私は内心しめたと思う。この若者はひきこもりやニートの状態から本当に脱しようと考えている。ストレスと戦わずに上手に付き合おうとしている。
「肩の力を抜いて、深呼吸して息を吐き出して、そうそう、朝、皆で体操している自律神経の緊張を緩和する呼吸法だよ。あれを時々やるんだ。無理して生活するのではなく、ありのままの自分でいいのだよ。共同生活を始めて1ヶ月以上、規則正しい生活をしているから、自分のペースで生活をしてもリズムを狂わすことはなくなっているから大丈夫だよ」

若者はそういった気持ちでしばらく生活を続けるときまって、
「先生、ありのままで生活しても、誰も何も言って来ないのですね。ありのままで生活しても、誰も馬鹿にしないし、批判もされない。普通に生活できているそうなると、いつの間にか、あれだけ気にしていた他人の目が気にならなくなる。不思議ですね。就労体験先でも、今までは指示されたことを失敗がないように緊張ばかりして、かえって失敗していたけれど、廻りが良く見えてきて、次に何をやれば良いのかわかるようになってきました。そうなると仕事が楽しくなりますね。寮の生活でも自然な会話ができるようになる。ストレスがあるはずなのに気にならなくなるんです。」
「そうそう、それがストレスとうまく付き合う方法だよ。ストレスと戦っては負ける。リラックスしてありのままの生活をするとうまくいくんだよ。」
「ようやく、寮の生活も楽しくなってきて、仕事の楽しさがわかってきた。自分に自信がついてきた感じです。でも、もう、3ヶ月目なんですね。最初は長い、辛いと感じたけれど今は短いと思えてきました。本当はもう少し、この生活をしたいとけど、もう卒業ですね。家に帰らずにアパートでも借りて、働いて自立します」と若者は笑顔で言い切った。
<つづく>

文責 牟田武生