日韓ひきこもり会議(2)

- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.13 -

 韓国の全人口4500万人のうち3000万人がインターネットを利用しているという
キム・ヒョンス氏(精神科医)は、小学生ではネットで遊ぶ時間が1日2時間、中学生以上では4時間を超すと『ネット中毒』と定義した。そして、ネット中毒に陥ると学校に行かなくなったり、友人や家族関係が悪化するので様々な問題が生じることが多い。

 そして、韓国ではネット中毒に陥りやすい子どもは、次の要因を抱えているという。

・ 両親が40歳以上でパソコンに疎く、子どもがインターネットで何をやっているのか
 理解できない。
・ 共働きで一人っ子が多い。
・ 両親の仲が良くない。
・ 親戚が近くに住んでいない。
・ 転校したばかりで友達がいない。
・ いじめなど心の傷を引きずっている。

 さらに、ネット中毒の子ども達は、学歴至上主義のストレスが多い社会の犠牲者であるとした上で、社会全体が多元的な価値観を認める社会に変化することが必要だとした。
また、子どものネット中毒治療には、家族の協力は不可欠であり、家族にできることは以下のことと話す。

・ パソコンをリビングルームに置く。(韓国では2000年からキャンペーンをやっている)
・ パソコンはゲームマシーンではなく、インターネットは親子でやるもの。
・ 父親は午後9時までには帰宅する。(父親が深夜に帰宅する家庭の子どもに多い)
・ 家族の会話を増やし、親戚との付き合いを頻繁に行う。

などと韓国政府の取り組みと治療者としての両面から報告した。

 「韓国の若者を知りたい」などの著書があり、韓国全南大学講師の水野俊平氏はインターネット中毒と呼ばれる人は全体の2%程度でありサムスン系の研究所がネット中毒の対策マニュアルを作成した。その中に、ネット中毒者から強制的にパソコンを取り上げても解決にはならない。解決のためには次のことが大切だと書かれていることを紹介した。

・ 両親が子どもの状態を理解する。
・ 親も子どもを理解するためにインターネットをやってみる。
・ 子ども自身に管理能力を身に付けさせる。

 キム・ヒョンス氏(精神科医)は、インターネットは子ども達だけの問題では、勿論なく、ネットがもたらす社会問題として、若者によるネットゲームの過熱から生じる暴力事件、チャットから始まりサイバーセックスや不倫問題、青少年の売春の増加、家庭崩壊、など様々な問題が起きた。

 これに対して、政府は指定医療機関で組織的に、予防策としてインターネットは中毒になる危険性を持っていることなどの認知活動、家族の力を引き出す社会道徳(モラルの向上)が大切だとし、ネット中毒者に治療として、グループや個人での自制力(自己管理力)をつけるための意識面での治療を行っていると述べ、「インターネットは良くないから禁止する」と言ったインターネットをマイナスと考えないで、例えば、“ゲーム好きからホームページ作成へ”などへの意識の転換が大切であることを強調した。

 日本よりインターネット社会では先をいく韓国。ネット中毒から抜け出させるために家族の力が大切で、基本であることを韓国側の専門医は誰もが強調した。だが、私には血縁主義が強く残り、人間関係が濃密な社会だから可能だと感じた。成熟社会に入っている日本で韓国のマニュアルをそのまま適応させても、社会構造の違いから上手くいかないことも多くあるはずだ。しかし、日本ではまだネット中毒に対しての予防や治療対応方法は確立していない。韓国に学び、なるべく早いうちに予防や対策及び情報モラルについて日本の現状に即して確立させないと、ネットがもたらす問題だけがマスコミで指摘され、国によって規制がかけられることは決して望ましいことではないと思う。

 最後に、私自身が引っかかっている問題だが、ネット中毒(依存)はアルコール中毒、ニコチン中毒、覚醒剤中毒などのように、薬物やアルコールによって、生理的なバランスをとっていない。だから中止しても離脱症状は起きない。また、アルコールやコカインなどのように、使えば使うほど強くなるといった耐性化もないので、中毒という言葉よりも、依存(addiction)を使うべきではないか、これらの範疇には、買い物依存、仕事依存などが入る。生理学的な依存よりも心理的な依存と考えた方が理解しやすい。
専門家の意見をお聞きしたい。

文責 牟田武生