日韓ひきこもり会議(1)

- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.12 -

 今月の8日から10日、京都市で3回目になる日韓ひきこもり会議(主催、みらいの会他、代表野田隆喜氏)が、両国の専門家の医師や研究者を集めて開かれた。 今回は「ひきこもりとインターネット中毒に関する」ことが主なテーマだった。

 韓国を代表する精神科医であるイ・シヒョン氏は韓国でも98年以降、不登校問題が起き、内気で優等生タイプ、服従的な子どもが、学校生活上での些細なことでいじめを受けて精神的に不安定になり、昼夜逆転の生活に陥り、不登校になるという日本と似たケースが多くなっていると報告した。そして、原因として考えられることは、核家族の増加、経済発展によるひんぱんな転勤による引越し(日本のような単身赴任はあまり見られない)や親戚付き合いの希薄化などの家族要因と韓国独特の学力至上主義教育からのドロップアウトが考えられるという。

 また、不登校が長引き2000年頃からウェトリ(日本語訳ひとりぼっち・ひきこもりのこと)増えたという。ウェトリになる家庭の特徴として、①中産階級の平均的な家庭②個室が与えられ、プライバシーを重んじられる結果、家族の会話が少ない③核家族(韓国では現在4人に1人が一人っ子、少子化が進む)④共働き⑤過保護⑥子どもの否定的な感情を親が受け止められない。などの要因からひきこもりになるという。

 だが、家族関係でも友達間でも、濃密な人間関係が残っている韓国では、日本のように一人で食事をする孤食は見られず、一人でいると「どうしたの?」とすぐに声を掛け、関わりを求める自然な心理的な対応と医学的な治療として、創造・意欲・感情を掌る前頭葉の働きを促進させる投薬(SSRI)を処方することによって、ひきこもりの期間は日本よりも短いという。

 学校や社会で人間関係から不適合状態になり、対人恐怖から自己防衛としてひきこもるという、ひきこもりのメカニズムには、日本と韓国でも大きな差異は見られない。
しかし、親子や友人関係では、成熟社会に入った日本では私事化が優先され、プライバシーが重んじられるために、家族や友人関係の質的なつながりは弱く、人間関係性は希薄になり、さわやかさっぱりの関係を好むようになる。その点、血族関係や縦横の人間関係が強く残っている韓国では人と人を繋げる糸が強く伝統社会性が残っている。それが、ひきこもりの解決の重要な要素の一つになっているようだ。

 しかし、日本では、宮台真司氏(社会学者、都立大助教授)は次のように分析する“良い学校を卒業すれば、良い会社に入れ、幸せな人生”というライフコースの崩壊が起こり、モチベーション(動機づけ)がし難くなり、価値観の多様化が若者を中心に起こった。日本のひきこもりの中には、学校や社会が求める価値観と自分の価値観の相違から、自ら社会参加しなくなる新しいタイプも生まれている。しかし、韓国では学歴社会という確固たるメインストリームが存在し、そこに社会的凝集性があるために過去に日本の主流だった学校や勉強からのドロップアウト組みが多いと質的に違いがあると分析する。

 韓国では、不登校・ひきこもり・学級崩壊・援助交際・ゲーム依存・エロサイトを見た青少年による性犯罪事件の続発など、日本と同じような問題行動が起きている。ひきこもりを含め民族性の問題よりも、経済発展に伴う社会構造上の問題として理解した方が良いのではないかと斎藤環氏(精神科医)の指摘は鋭い。

 韓国では、伝統的な家族制度や友人関係が残る人間関係の温かさがひきこもり解消の鍵になっている。仕事や学校の直接的な会話による刺激は避け、家族を思いやる暖かい対話の中で、家族の関係性を豊かにすることが大切と斎藤氏も含め専門家は指摘する。しかし、成熟化社会の進行は、ますます、希薄な家族関係を作り出していく。家族関係を補完する新たな発想の地域社会が必要だとする宮台氏の指摘が印象に残った。韓国は日本のひきこもりに学び、日本は韓国のインターネット対策を学んだ。ネットゲーム依存については次回報告する。

文責 牟田武生