適切な特別支援教育を

NPO法人教育研究所理事長 牟田武生

  • 教育新聞 2009年6月22日掲載

大人になって大きな差/教師の対応でひきこもりに

厚生労働省依嘱の富山県宇奈月若者自立塾でニートの若者の自立支援を行って4年が経過した。

自立塾に来る若者の7割は不登校を経験し、ほとんどが「待ちましょう」「様子を見守りましょう」の対応の影響か、その後、多くの若者が5年以上のひきこもり生活をしている。

3ヶ月の共同生活をベースにした対応で人間関係のスキルや様々な職種の就労体験を積み重ね、自分に合った職種を見つけ、自信をつけ、修了生85人のうち約7割の若者が社会人として巣立っていった。

残りの3割の若者の多くは、統合失調症や神経症などの精神疾患や軽度発達障害を抱えた人たちである。

入塾のカウンセリングでLDの若者は、在学中に発達障害を十分に理解してない教師から「こんなこともわからないのか」と級友の前で叱責を受け、能力がないことで馬鹿にされ、人間不信になり、不登校からひきこもったケースが多い。

高機能自閉症(アスペルガー症候群)の若者は、こだわりの強い、いわゆる「変わった奴」と見られ、からかうとその反応が面白いからおもちゃにされたり、マイペースで自己中心に映り「空気が読めないのか」と教師などから指導された経験を持っている若者が多く、クラスに居場所がなくなり、不登校になったケースが多い。

そのような児童生徒が不登校になっても、不安が強い心因性の不登校の子らと同じように、やはり「待ちましょう」「様子を見守りましょう」の対応がなされているようだ。

東京から来たAさん(男性25歳)はアスペルガーの若者だ。中学時代には何事にも真面目に取り組むが、うまくいかないことが多い。ほかの生徒から見れば不器用で要領が悪く、機転が利かない。

ある日、担任教師が我慢の限界を超え、「お前を見ているとイライラする。こんな不器用な奴は見たことがない」と教室で思わず言ってしまった。その言葉がきっかけで堰を切ったように級友から見下され、雑言を浴びせられるようになり、怖くて学校に行けなくなった。

ひきこもったAさんは、他人への不信感をあらわに示し、怒りなどの抑制がきかなくなって家族に暴力を振るったり、すべてに対して意欲が低下して動けなくなったりしていた。

そんな状態のAさんに救いの手を差し伸べてくれたのが、養護教諭だった。家庭訪問して、かたくなになった心を解きほぐし、1対1の、いまでいう「特別支援教育」を行っていった。養護の先生は読み書き、行動、作業など、彼の障害に応じて適切な指導を行ったという。

自立塾を修了し、会社員になれたAさんは、特別支援教育を受けなかった同じアスペルガーの若者とは、人間関係力、能力、作業性に大きな差ができた。

教科担当の教諭から見れば、「特別支援教育なんてこともやっても…」という声を最近しばしば耳にするが、成人に達してから大きな差が生じることがAさんを通して実感できた。