不登校からの学校復帰への道筋

- それぞれの状態像に応じた対応のあり方について考える -

2011年6月11日兵庫県教育委員会不登校担当研修会「県立やまびこの郷」の講演内容です。

私が不登校にかかわった理由

みなさんこんにちは!
只今紹介いただきましたNPO法人教育研究所の牟田と申します。今日はよろしくお願いします。
実はこの学校は以前から、「来たい!来たい!」と思っていて、初めて念願叶ったなと思います。
今日お話する内容は「不登校からの学校復帰への道筋」ということです。不登校問題も昔は長欠児、登校拒否、不登校と時代の変遷とともに呼び名を変えて、かなり時間が経過しています。ただし、時間は経過したが、なかなか根本的な問題の解決法が見つからず、不登校の状態像そのものもが、長い時間の中で複雑化や多様化していっています。
今後、どう取り組んでいいったらいいのか、現場の先生方は非常に大変な思いをされているのではないかなと思います。不登校が複雑化・多様化していく中で、学校に対する価値観が変わってきたり、あるいは親と子の関係が変化したり、学校と家庭との関係が少しずつ変容してきたりしています。
私は、最初はこの問題をやるつもりはなかったのですが、教育心理の勉強を大学院でしていて、ヒモの生活、魚の干物じゃないですよ。女房が学校の先生をやっていまして、それに食べさせてもらいながら大学院に行くような、そういう意味でのヒモなのですけど…。
その頃、横浜でも、長欠児って呼ばれた子どもは、卒業できずに、二度目の中学3年をやり、16歳の誕生日を迎えると、除籍という処分を受けていたケースが、東京で50件、横浜で15~20件位、毎年ありました。
女房としては、新任で、中学校に入り担任している子どもも自分も、一緒に成長していって欲しいと、願っていたのですが、5月のGW以降、担任しているクラスの子が、登校して来なくなってしまったのです。しかし、その生徒の家に家庭訪問をすればするほど、引っ込んでしまい、登校どころが、外出もしなくなってしまいました。生徒にも会えなくなってしまった。このままだったら、この生徒は進級できなくなるではないかと思いました。
その生徒は、まだ、中学1年生です。業を煮やした女房は私に向かい「あなたは専門書ばっかり読んでいるけど、その生徒の所に私の代わりに行ってよ」と言いました。私が行ったって会えるわけない、どうせ何らかの精神疾患のはじまりか、いわゆる知的なもの(知的障害かボーダー)を抱えているのだろうくらいに考えていました。でも、必死で頼むので、これで行かないとヒモの生活が切れちゃうかもしれないと思い、拙いから、その生徒の家に渋々行きました。
しかし、行ったのだけれど、案の上会えないのです。「会えなかったよ」って、帰って来ちゃダメだろうから、何とか手土産持って帰ろうと考え、下に妹たちがいたので、妹たちのボランティア家庭教師に来ようということで家庭教師に納まりました。
週1回~2回分数とか小数の計算を教えて、それから1時間半とか2時間トランプをやったりオセロをやったり、何かゲームをして、とにかく楽しんでいれば、その子が、きっと顔を出すだろうと思ったのです。ところが、1ヶ月たとうが2ヶ月たっても、肝心かなめの人は現れません。

事例研究に出て来ない子が現れた

7ヶ月8ヶ月が、たって、ようやく襖が開きました。その時、小学校1年生の一番下の女の子が「お兄ちゃん、このおじさんすごくタチが悪いの!普通は大人なら、小1の私が勝てるようにするのに、それをしないで、すぐムキになって自分で勝っちゃう・・・。お兄ちゃん教えてよ!

ババ抜きをやっていたと思うのですけどね、お兄ちゃんがすっと入ってきて小1の隣の席に座った。僕はカード越しに、その子をちらりと見ていたのですけど、自分がそのころ勉強していた、フロイトとかユングとかロジャースとかの事例の中に出てこない子が現れたんです。
「一体これは、なあに・・・」と思いました。卒業してから教育相談員になれないかと、就職活動をしたのですが、その頃、教育委員会の相談室は退職校長先生が相談員だったので、私みたいな若造は就職できなかったのです。仕方がなく、病院行ってアルコール依存の人や統合失調症の人、あるいは鬱の人のカウンセリウングをやるのも嫌だなぁと思っていました。じゃあ、いっそのこと自分で起業しちゃおう、1972年に、「教育研究所を作りました。いわゆる教育相談と言ったって、相談らしいものはできなくて、お母さんやお父さんのお話を聞いて、どうも、その子が学校に行けてないようだったら、家庭訪問をして、話を聞いて、勉強が遅れていたら数学とか英語とかの面倒見たり、あるいは一緒に運動に引っ張り出したりというようなことやっていました。また、修学旅行に行ってないのだったら、蒸気機関車が好きだった子なんかは、京都の梅小路の機関区まで一緒に行き蒸気機関車を見て、修学旅行で行く京都の名所を見て来るようなことをしていました。

不登校児のための教育施設開始

でも、相談とかちょこちょこと面倒みても、その子たちは復帰できないだろうなと思っていました。そこで何が一番重要なのかなと考えました。みんな生活リズムがかなり崩れているのです。今の不登校の子と同じですね。昼夜逆転して生活リズムが崩れている。
やっぱり、朝起きて、ご飯を食べて学校は行くものだから、1年も2年も3年も学校に行ってない子は生活リズムを整えなければダメなのだろう、ということで、1週間程度の短期合宿を山梨、長野ではじめました。また、いつでも来れるようにと、本当は、最初、非常に抵抗があったんですけど、学校のやっている時間に、学校の代わりに来なさいよ、ということをはじめました。抵抗があったというのは、学校行かないのに、何でそんなことに行くのか、という風あたりも世間には勿論ありました。
でも、それを根本的に直すには、心の問題、人間関係の問題、学力の問題、体力の問題、それを整えていかないと、例え学校に行ったとしても、すぐに行けなくなって、益々、全体像が悪化していく、というがだんだん分かって来ました。きちっとある程度の安定した姿(形)にしてから学校に戻して行った方がいいな、という風に考えるようになりました。
84年だったかな、家庭と学校の間の中間施設としての教育施設を本格的にはじめました。そして、ずっと、今日までやって来ています。私が扱ってきた不登校の子どもは、どちらかというと「心因性の不登校何らかの身体症状や精神症状が出て、いわゆる対人不安が強くなって行けなくなる。旧来型ですね。昔からあったタイプの人たちでした。その後、無気力な人たちの対応を考えていかないといけないということで、今は「心因性のタイプと、「無気力なタイプ」を対応しています。ですから、今日はそのタイプの対応の仕方をお話ししたいと思います。

心因性と無気力型が多い

やまびこの郷では平成20年、21年にアンケート調査をされたようですけど、不登校の要因については、小学生・中学生でも怠惰無気力な面が見られるっていうことですね。それから身体症状、頭痛、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、発熱、微熱などの継続等、身体的症状が見られるというので、兵庫県でも、これらのタイプが中心だろうなと思います。
皆さんに私のレジメをお配りしていると思いますけれど、ひとつは心因性、心に原因を持っていて身動きとれなくなっているタイプの子、1ページのところから1として書いてあります。3ページのところから3、それと無気力型、アパシー、別名退却神経症って書いてあります。これの話が中心になっていくのが、4ページからある2-5の基本的な対応、それから2-6から状態像が変わらず、長年生活している場合というようなことを中心にお話ししたいと思っています。
この資料をお渡ししても、全部の内容をお話しする時間はないのですが、資料としてお使いください。

心因性のタイプの子のストレスについて

最初に、心因性のタイプ、この心因性のタイプで何らかの身体症状が起こってしまう。あるいは精神症状が起こってしまうというような子どものケースの場合です。
直接的なストレスというのがあって、対人関係の失敗や学力上の問題とか、転校とか、病気とか、その他の要因が子どもの日常生活に影響を及ぼし、いわゆる行動化として不登校の問題が起きる。
その行動化の問題としては、不登校だけではないのですけれど、いわゆる攻撃的な行動、一種の家庭内暴力、あるいは引きこもり、退行、それから昼夜逆転等。行動として現れる身体面としては、さっき言ったような症状、腹痛、嘔吐、頭痛、発熱。精神面では不安とか不機嫌とか緊張とか抑鬱とか恐怖、自責、いらだちとか不満、こういったものが現れてきます。
ストレスに対する耐性が非常に弱くなっている。ストレスに弱い子どもが非常に増えています。ストレス耐性が弱い人は、生きていくことが大変な人です。ストレスは色々なところで常に人間にはかかっていますが、それに対してうまく処理できない人のことを言います。
これはどういうことかっていうと、ストレスによって影響を受ける、自律神経は、無意識に臓器に働きかけをしています。例えば、心臓よ、動け、とまれ、動けと脳が考えて命令しているわけではありません。みんな自律神経が無意識にやってくれているのです。そして、自律神経には、交感神経と副交感神経があります。交感神経は、一生懸命頑張ってやらなきゃいけないというがんばり神経です。今日、皆さんは色んな話を聞こうと思っています。これは交感神経の働きです。けれども、お昼に出た、やまびこの郷のお弁当おいしかったし、量が多かった、食べ過ぎると、だんだんと眠くなってくる時間帯、眠くなるというのは副交感神経が働いているということです。副交感神経はやすめの神経です。
日常生活は交感神経と副交感神経のバランスでやっているのだけれど、交感神経が6で副交感神経が4だとストレスが溜まっていく。反対に副交感神経が6で交感神経が4くらいだと、ちょっと怠けていてリラックスしているようですけれど、実際はその方がストレス耐性は強いのです。
過緊張の状態がずっと続いてしまうような人の場合は、すなわち副交感神経の働きがにぶい人。副交感神経は休みなさい、寝なさい、ゆったりしなさい、という神経なんだけど、これがうまく機能していないのです。
学校で一生懸命勉強して、まじめに頑張ってた、昔の不登校に人はどっちかっていうと、優等生的な子どもです。その子は家に帰っても気が休めない状況があったとします。例えば、夫婦関係が悪かったり、嫁姑の問題があり、緊張状態があったり、本人自身が気持ちの中で、家に帰ってもゆったり出来ずに、何か緊張状態が続くといったような状態で過ごすと、学校でも、家でも、過緊張状態続き、交感神経が常に働いてしまい、副交感神経がうまく機能しなくなる子の場合、ストレスがたまり、身体症状あるいは精神症状がおこってきます。
人間はストレスを過剰に受け、身体の調子が崩れる前に、体を健康に保とうと、自然と体の中の免疫力の働きのように副交感神経が働きだしてくる。そして自分のストレスを発散しようとする。
だから、例えば不登校になった子ども達は、不登校になり、しばらく様子をみていると、長時間寝ているという子が非常に多いいですね。長時間睡眠、いわゆる10時間とか11時間も寝ている。そのために睡眠の時間が長くなって生活のリズムが崩れて昼夜逆転を起こしてしまう。
これは、はっきりいって良くなろうとはしているんだけれど、同時に生活リズムが崩れていってしまうというような人たちです。こういった人たちに1番最初にやらなければならないのは何かというと、いわゆるお医者さんの診断で、もしかしたら「鬱なんじゃないか」、あるいは「統合失調症のはじまりではないか」、あるいは今流行の「軽鬱なんじゃないか」というような診断も勿論あるのですけれど、「病院に行っても特に何も問題はないです」「心の問題ですね」と、言われるケースが非常に多いです。
その時に、心の問題なのだろうと重要視していまいます。でも心の問題と言っても、「うるさいな」「放っておいてよ、何でそんなこと聞くのよ」というようなことが多いのです。なかなか自分の不安とか緊張の問題を小学生・中学生では整理しきれない。それを客観化して説明をしていくことが難しいケースが非常に多い。だから聞かれると余計に辛くなっちゃう。「どうして自分は学校に行けないのかな」「なんで友達とうまくできないのかな」ポロっと涙を流す。それを根ほり葉ほり聞いても非常に雰囲気が悪くなって、関係が悪くなります。
親はついつい「このまま学校へ行かないと」どうなるんだろう、「高校に行けるだろうか、行けないのだろうか」自分の不安を子どもに押しつけてしまうケースが非常に多くなり、親子関係が最悪になっていくことが多いと思います。

子どもの身体に起きている心身相関

私が、最初に思うのは、心身相関、心と体、心身相関の中で、身と心の問題なのです。身というのは体の問題、まず体の問題を心配してあげるのが1番効果的です。体の問題は解決しやすい問題です。体の問題が解決すると、子どもはぐっと、信頼感を持って心の問題を相談して来ます。
先に心じゃなくて、先に心配してあげるのは、体の問題が非常に重要なのではないかと思います。体が不調で熱を測ってみると、最初のうちは37.5℃近い発熱状態の子どもが非常に多いですね。発熱状態があり、学校に行くのに頭が痛い、お腹が痛い、下痢がある。
病院に行って精密検査をするのが、内科的には何も問題がない。「精神的な問題です」と医者に言われる。「じゃぁどうするか。」休んでいると、だんだん、外から来るストレスが遮断されるわけですから、体の状態がよくなって、微熱がとれるっていうような状況が起こってくる。
しかし、ずっと、そのまま学校に行かない、外も出ないと、どうなっていくのかっていうと、ほとんどの子どもは36.4℃位の平熱だった子どもでも、今度は、いつの間にか35℃台になっているのです。
引きこもりの長い人は、ほとんど35℃台。中には34℃に近いような、低体温化の人がいます。ひきこもって何にもしないと低体温化が進むのです。これは体を動かさないから、いわゆる体温が上昇していかないわけですよね。だから、どんどん低体温化する。そして、低体温化が進むと、脳が活性化していかない。ますます自分の世界に入り込んでしまう、ということが起こってきます。
じゃぁ、体温上げるにはどうするか。少し運動する、いわゆる家の中でできるようなスクワット、腹筋背筋でも良いのです。一緒に体を動かしてみようよ、少し熱くなる位に体を動かしてみようよ、と言うと、だいたいの子どもは体温が上がってくるんですね。
そんな子らの食事をみると、ほとんどの子どもは二食です。朝、昼、晩と三食は食べていません。二食だとどうなっていくか、血糖値を調べてみたら、ほとんどの子どもが低血糖なのです。血糖値が高いのはいわゆる糖尿病の人です。どういうことかと言うと、不登校やひきこもりの人は生活リズムが乱れて、多くの人は昼夜逆転の生活をしているので、ほとんどの人が二食しか食べません。夕方に近くに起きて来て最初の食事を摂ります。朝食と昼食分の1.5倍くらいの食事を摂ります。そうすると、血糖値がどんーと、上がります。深夜に二回目の食事を摂ります。またどんーと、食べる、また血糖値が上がるだけれど、一日、二回の食事だと、胃に何も入っていない時間が、ずっーと続きます。ですから、平均的には低血糖状態なのです。糖分が脳に回らない、そうすると必然的に無気力状態になります。
二つの条件が重なるわけなのです。ひとつは低体温で無気力化する、もうひとつは血糖値が下がってしまい糖分が脳に回らないから無気力化する。この二つの状態が長く続きます。だから、気力がでない、やる気が起らないのです。
「頑張ろうよ!」と、気合いをかけるのもひとつの方法かも知れませんが、それじゃーぁ長続きしない。そんな時、どう対応するのかっていうと、体に起こっていることを子どもに説明して欲しいのです。
「定期的に体温計で体温を測りなさい」と言って欲しいのです。そして「やっぱり、いつも35℃ちょっとだよね!」同時に血糖値は測ることはできないけれど、「無気力なのは二食しか食べてないからだよ」。偏食傾向で、おそらく血糖値が低くなっている状態があるからだと思うよ、それで無気力な状態になっていると思うよと、いうような体の面から話してあげることが大切です。
それから基本的には「三食食べて、一日一回、体を動かしていい汗かいて、ぐっすり眠れるような状態を作っていくことがとても大切なんだよ」と言ってあげてください。
熊本大の三池輝久先生が一生懸命調べました。不登校の子たちを入院させて、その状態像をサーモグラフィや深部体温計で脳の発熱状態を見たら、同じ結果が出ています。脳自体が発熱状態なのになっています。
自律神経失調症と不登校の子どもは、ストレス状態から自律神経失調の状態、交感神経が働き過ぎ、副交感神経が鈍くなってしまったために、その様な状態像が起こってくるということが分かってきました。だいたいの子どもたちは、2.3ヶ月、長い子でも6ヶ月位すると投薬しなくてもきれいに治るんです。
だけど低体温状態がずっと続き、二食状態で低血糖になり、無気力になっている。だからはっきり言って、学校を休みはじめ身体症状がなくなったら、何かの形で運動し、体を動かしていくこと、二食を三食にすることができると、気力が普通は湧いて来て、何かやろうかな、というように状態になって来ます。最初の3ヶ月は状態が悪い時に、登校刺激をしたら、親はこんなに辛いのを分かってくれない、と感じダメですけど、体の状態が整ってきた場合、何らかの登校刺激を加えていかないとうまくいかないのです。
例えば、動かなければ、体温はそのままで低いままです。二食のままだと、低血糖のままだから、三食食べられるように、生活リズムをきちんと整えていくこと。やまびこの郷も同じだと思うのですけど、生活をきちんとすることによって、身体症状は自然にとれてきます。
身体症状が取れてきた段階でもうちょっと意欲が高まるように、好奇心や希望が持てるように、知的な刺激していくことが大切。というようなことがだんだん分かってきました。
三池輝久(みいけてるひさ)(1942~)日本の小児科医、睡眠障害

時、場所、人間関係を壊す不登校

引きこもりの症状の中で、精神世界とか、心理的世界については、今回は医学的な説明になり、時間的な都合がありしません。しかし、不登校になると、時、場所、人間関係の縛りのない外的ストレスがない生活の中でも、生活リズムの乱れが起こってきます。30.40年前の不登校の子の状態像をみると、この私達が大切にしている三つを同時に壊してしまいます。その頃、精神疾患の中で不治の病とされ、最も怖れていた病気が精神分裂病でしたが、それよりすごい病気が現れた。という専門家が精神科の医師を中心に結構いたんです。
生活リズムは昼夜逆転している子は崩れちゃうでしょ。場所は、自分たちにとって重要な学校生活の教室という場所も失ってしまうわけです。それから、人間関係も人との関係も拒絶して、つながりを持たなくなって三つとも壊す。統合失調症の人は三つ壊すことはあり得ないのです。 二つぐらい壊すが、三つとも壊す人が現れた!大変な問題だね!と言っていました。不登校の問題だったら、少なくとも、時、という観念は、自律神経失調の問題が片付ければ、片付く問題であるから、身体そのものの調子が整って行ったら、生活リズムが自然に安定していく。
生活リズムが整った生活が長期間続けば、時の問題も解決して行きます。
場所というのは、意欲が沸いて来て、その子が自分のここが居場所だな、ということが分かっていけば居場所を大切にして行くでしょう。そこの場所で出会った人達が暖かい人間関係を築いていれば、さらにその場所を大切にして行くでしょう。そして、その場で知り合った人達との関係も丁寧に関わり、人間関係も上手く行くようになり、自信を持てるようになり、積極的に行動していくようになります。
時、生活リズムといての体の問題、場所、次に人との関係、というものを構築していくことがすごく重要なのだなと考えます。

鈍磨と過敏

次に、この子たちの特色としては身体感覚の鈍麻の問題があります。実際に家庭訪問されている先生はわかると思いますが、年柄年中、Tシャツ一枚でエアコンをつけぱなしで、寒くても、暑くても、そういう生活をしています。長い時間そういう生活をしていると、身体の感覚そのものが非常に鈍麻して来ます。
「一年中同じ格好なんですよ。スエットならスエットだけで過ごしています」こういう人がたくさんいます。寒いとか暑いという感覚が鈍くなるのですね。
本当に不登校になって引きこもりの生活になると、やっぱりそれは異常なのです。窓を開けると、自分を知っている人から被害を受けるのではないかという関係被害念慮が強くなることから起る、他人の目が異常に気になり、雨戸を閉めたまま、カーテンを引いたまま、になっていくのだけれど、やはり朝の太陽の光を目で浴びること、ガラス越しでもいいけれど、それが、25時間を一日とする体内時計と実際の時間、24時間との違いの一時間をリセットするということが、国立精神衛生センターの睡眠の研究で分かって来ました。時差一時間の違いをリセットするのが、朝の太陽の光で、光療法ですが、目で太陽光を受ける事によって、その1時間の誤差を直していくといった研究なのです。
だから睡眠障害を治すために、太陽と同じような光源を出す部屋に入って、ばぁーと光を浴び、睡眠リズムを調節していくという治療が始まりました。不登校で昼夜逆転の生活で朝起きれない子の場合は、雨戸は使わず、遮光カーテンは避け、朝の光が部屋に差し込むような配慮が必要です。このように時間のずれ、気温に対する感覚の鈍磨、というような問題が、この人たちには起こっています。
それとは反対に関係被害念慮から来る反応として、感情が必要以上にネガテイブになり、過敏な反応を起します。胃炎や胃腸障害、過敏性大腸炎なんかをよく起こしたりします。外に出ると、過緊張状態が続き、お腹が痛くなるという過敏性大腸炎。あるは緊張のあまり、頻尿になったりします。外に出ようと思って電車に乗ろうと思うとお漏らしをするのではと不安になり、どこの駅にはどこにトイレがあるのかをネットで全部調べて知っている人もいます。頻尿っていうのは、外に出ると緊張して興奮した状態になり、体が発熱状態になる。今、講演している私もそうですが、興奮して汗が出てくるそれを冷やそうと、汗が出て気化熱によって体を冷やそうとします。それと同じで尿が出るのですが、少ししか出ない。でも、尿意はある。
頻尿がひどい子がいました。18歳の子で中学から不登校で、ずっと引きこもっていました。頻尿がひどいので外に出られません。M大学病院に泌尿器科の先生で有名な先生がいるので、その子を連れて受診させました。
そうすると・・・。だんだん年取ってくると尿漏れってありますよね、おじいちゃん、おばあちゃんがいわゆる尿道のしまりが悪くなっちゃう、それと同じ状態が18の子に起こっていました。長い間、体を動かしていないから、筋力が全部衰えてしまっていたのです。引きこもりが長くなり、体を動かさないと、そこまで筋力が衰えている若い人がいました。ほとんど筋力がなくなってしまうような状態でした。
その子はウォーキングから始めて少しずつ運動を取り入れ、体力が付くと、頻尿の状態が完全に治りました。頻尿のために外に出られなかった。それが治ったら外に出られるようになった子がいました。
過敏になってしまった臓器が色んな影響を起こしてしまう。
何度も言いますが、長時間睡眠の問題があります。不登校の前後は身体症状としてはストレスによって37.5℃位の発熱がある。また、不登校や引きこもりが長期化した場合は「体温計で測ってごらん、低いよね。低いと無気力になるから、運動をして体温を上げよう」とアドバイスすることが大切です。

心因性タイプ(情緒混乱型)の特徴

2ページのところの1-3の心因性のタイプですが、文科省の言い方だと情緒混乱型になる子どもの生活的特徴は・・・。おとなしい、真面目、完全主義、神経質、感受性が強い、責任感が強い、内向的、気が弱い、という特徴があります。
これらの特徴はプラスに働いている時は優等生なのです。いわゆるおとなしくて真面目で、完全主義だから言われたことをきちっとやっていくわけです。ちょっとしたことも気になるから、きちっとやろうとする。感受性も鋭い。一生懸命に空気読み過ぎておかしくなっちゃうというほどです。また、責任感が強いから全うしようとする。ただ内向的で、どちらかっていうと気が弱い。
ストレスから身体症状が起ったり、精神症状が起こってくると、すぐに自信を喪失してしまって、身動き取れなくなって、マイナスに働いちゃう。
気が弱いから外に出られなくなっちゃう。責任感が自分を責め出し、自責の念にかられる。神経質な部分がさらに神経質になって、ちょっとした雰囲気や人の動きが気になってしょうがない。少し遅れてしまった勉強を何とか取り戻さないといけないと思って勉強をやり出したら、完全にわからないという完全主義のため、最初につまづくと、一歩も先に進めない、という風になってしまいます。
上手く行っている時は良いけれど、一度失敗(挫折)して、動けなくなってしまうと、自分自身を責めるような自罰意識が高くなる事例が多い。子たち達の特徴です。だから、何かうまく軌道に乗ってやり出すと、大学でもどこでも行けてしまうし、学校に行きだし、上手く回転し出すと、今、大学の准教授や講師になった人もいるんです。皆、一年以上、不登校だった子なんですけれど、やり出すと、すごい実力を発揮し出すタイプの人たちなのだろうと思います。

医療ケアを受けるならば・・・

ただ歯車が一歩崩れちゃうと、もう20年も引きこもりになっています。その差異がものすごく大きいわけですね。神経症の場合、中学の時はまだ明確じゃないけれど、高校の年代になってくると、これが明確に出てくる。不安神経症だったり、あるいは強迫神経症等によって、マイナスのこだわりがどんどん強くなって中三位から少し現れ始める、高校生になると非常に、これが多く現れてきます。あるいは、抑鬱症状が出てきたり、対人恐怖症がひどくなってきたりします。
中学生から高校生の思春期の後半になると、こういった症状が現れてきます。厄介なことに、これらは投薬してもなかなか解決がいかない。でも根本的な、この気質の問題であり、その性格の特徴を直すわけにはいかないから、どうやってこだわりをとっていくかっていうと、精神的な不安と具体的な不安(例えば不登校)を取り除いて、行動しながら、時間を取り戻していく成功経験をどう増やして行くかの問題ですね。失敗体験ではなく、成功体験を増やしていって、自信をとり戻していくことによって、かなりの部分が解決していくというように考えた方がいいと思います。
病院に行って投薬してもほとんど治らないケースが多いです。やっぱり専門機関の病院にかかれるのだったらかかった方がいい。でも、町医者ではダメなケースが多い。でも、国立精神保健センター出身の医師が開業したり、大学病院、国立精神保健センターの医師は、この研究を国から予算をもらってやって来ています。研究して来た医師だから信用できます。県レベルの病院、大学病院には国立精神保健センターの先生がいるので、もし、治療を受けるだったら、そういう先生のところに受診しないと、妙に投薬だけを受けてしまうというようなことがあると思います。
特に対人恐怖は、日本人特有の神経症でもあります。それは母性性の強い精神風土に現れている。自分が小学校や中学校の時、先生に、次に指名されるではないかと思って、胸が高まりドキドキして、赤面恐怖になった人、あるいは脇から汗がタラタラ出て来る、この中にもそんな経験をした先生がおられるでしょう。これから夏になり、Yシャツの脇の下がびしょびしょに濡れて、みっともないという人、小学校・中学校・高校でそういう体験したという先生がいると思います。
でも大人になって30、40代になったら、いつの間にか、赤面恐怖なんてなくなっていますよね。だいたい20代の半ば位から無くなっている人が多いようです。なんで、なくなったというと、やっぱりそれだけ経験、体験を積んできて、少々のことでは恥かいても、どうってことないなってことを獲得していくわけですよね。獲得した段階で、自分自身、大丈夫なんだと、思えるようになったら、そういった症状は無くなるということです。
ところが引きこもって、5、10年経過し、15年位引きこもっている人のカウンセリングやると、実は思春期で時が止まってしまっている人がほとんどです。だから、「35歳です」なんて言っても、15歳位の精神状態の人がよくいます。赤面恐怖だったり、過剰適応だったりするような状況が現れてくる。
その場の雰囲気や場に過剰に合わせようとする適応が起ると、本来の自分自身ではないので、必ず、ミスが起こりやすくなります。そして、不幸にも、ミスを指摘されたり、失敗を誰かになじられたりすると、自分自身を失い失敗を次々に重ねる失敗構造が起こり、完全に動けなくなってしまうというようなケースが多いですね。だから経験、体験、そういう意味では成功体験をたくさん積むことによって、日本人独特の対人恐怖症っていうのは直ってきます。でも、いわゆる赤面恐怖とか視線恐怖もそうなんだけれど、自己臭恐怖という人が時々います。
中学生には、まだ、少ないですけれど、高校生や大学生では、人間の穴の空いている部分、鼻、口、おしり等。そこから嫌な臭いを常に出しているんじゃないかと思い込んでしまうのです。常にそれが気になって気になって仕方がない。学校の席でも一番後ろの席なら座れるのだけど、後ろに人がいる席だと座れない。映画館に行っても、一番後ろの席が空いていれば映画を見ることができるけど、他の席じゃ座れない。

統合失調症との判別の仕方は・・・

思春期自己臭恐怖の場合は、ほとんどの人が統合失調症の前触れです。極めて少ないのですが、自律神経失調症がひどく、被害妄想からそうなる場合もありますが・・・。子どもや若者とカウンセリングしていて自己臭恐怖とか醜形恐怖、これは自分の顔がおかしいじゃないか、変じゃないかと確認しなくちゃいけないと、年柄年中、鏡を見にいく子いませんか?一日20数回、鏡を見ても顔なんて変わらないのに、これは醜形恐怖があるんですね。だから、ちょっと他の人が見たら何のことかわからない。全然、問題じゃないのだけれど、本人にとっては、どんどん自分の顔が崩れていくんじゃないか、という恐怖心を持っている。これも思春期に現れる精神疾患の病気のひとつです。
醜形恐怖とか、自己臭恐怖という症状が現れた場合は、前の2つと違って克服することはできません。ほとんどの場合、それが現れた途端、統合失調症の疑いありで治療に入った方が、治る可能性が高い。相談を受けていて、このところは区別をきちっとされた方がいいと思います。
統合失調症は、いわゆる幻覚、幻聴、妄想を伴います。この三点があった場合は、ほとんど統合失調症です。幻覚は不登校の子場合はほとんど現れません。これが現れたら病気です。ただ幻聴とか妄想は現れます。声が聞こえたとか、電車に乗って居て、クスクス思い出し笑いをしている人も居ます。あれも厳密に考えると妄想なのですよ。また、御自身がニヤニヤすることもあるでしょう。何かの時の思い出し笑いすることもあるでしょう。
子どもの場合、話をずっと聞いていくと、妄想なのか、本当なのか、例えば、小学校の低学年時に、いじめられたことが頭の中にこびりついていて、中学生になっても思い出す。本当は、思い出したくないのだけれども、何らかのきっかけで思い出してしまう。そのことを話す場合があります。
過去の自分の体験と、今、起こっている妄想が過去の体験とつながっている場合は、病気ではありません。でも、その人が生きてきた人生の中で、経験や体験をしていないことを言い出した場合は、これは怪しいと考えてください。子どもから、話しを聞いたわけの分からない話をお母さんに聞いてもそんな体験をしていないと思いますと、言った場合は、やや怪しいから病院につなげた方がいいも知れない。
しかし、幼稚園の時にいじわるされた、ブランコから落とされた、という話につながるとしたらそれは心の傷になっているが、病気としては考えない方がいいだろうと考えてみてください。その辺の感覚がちょっと難しい。
疫学統計的には100人に1人は統合失調症になる可能性があります。今は死に至る病ではありませんが、早期発見・早期治療によって予後が全然違ってきます。
それから3ページのところの1-6とか、説明すると長くなりますので1-6は割愛させていただきます。1-7のところで、日本人の子どもで比較的多くなっているのは、境界性人格障害という人が最近多くなっています。これは、ちょっと注意してみてほしいと思います。

難しい境界性人格障害

例えば、何か事件を起こしてしまった若者がいたとします。その若者は、パーソナリティ障害や発達障害があるとします。この若者に責任能力があるのか、ないのかは、診断名や障害の程度によって決まります。裁判中に裁判官の判断によって、精神鑑定を受け「責任能力がある」と判断された場合は、裁判所で有罪判決を受けた場合は少年院に入ります。少年院では再犯を防止するために、若者を教育する義務があります。この若者の場合、病気が犯罪をした重要な要因であった場合、科学的治療をしていくと良くなる可能性が高く、治療効果が明確な場合はエビエンス(科学的根拠)が明確ならば医療少年院で治療を受けることができます。性格的には、少年院は刑務所ですが、医療少年院は病院です。
医療少年院に行って専門の治療することによって、状態が良くなる場合が多いのですが、医療少年院へ行って様々な検査をして、時間をかけて診断をすると、精神鑑定時の診断のなんと9割が誤っていると言うことを医療少年院の精神科の専門医から聞いたことがあります。
裁判時に何らかの診断名が出て、有罪判決がおりて、医療少年院に行って1年とか2年間治療を受ける。費用は年間1人あたり5000万円位かかるそうですが、結局ほとんどの人が境界線人格障害(パーソナリティ障害)や発達障害があるそうです。
その医療少年院の医師は、「サカキバラ事件」の主治医だそうです。彼女は「サカキバラ」はアスペルガーを含めた発達障害ではないかと思ったのですけれど、実は人格障害であったろうと・・治療してわかったそうです。
彼女の治療によって良くなったのではなく、主治医が言っているのですが「私達の治療で良くなったのではなく、日常生活に関わる人と心を分かち合って信頼関係作ることによって、状態がかなりよくなって外に出ることができるようになった。だから、本当は医療の治療者よりも、関わる人との人格的な触れ合いによって、子ども成長し変化していく。人格障害はあるのだけれど、状態が良くなっていくのは、周りの関わり方による変化が大きかったのだろう。」ということですね。
まぁー、彼の場合、冷たいお母さんや養育の仕方にかなり問題があって事件を起こしたが、被害者やその家族の人には本当に申し訳ないが、温かい人間関係を築いていくことで、心を取り戻していったという経過があったのだろうと思います。だから治療としての意味よりは、その他の精神的なかかわり方が大きかったのではないかと、言うことだと思います。
生活全般にわたる不安とか、無気力感とか、孤立感があり、それが、次々に生み出され、処理できない不完全な気持ちがある。それが強い不安や恐怖になり、深刻な悩みになっていきます。多彩な身体症状は神経症状的訴えや一過性の心気症を呈することがあります。それに伴う、行動化の問題に、反社会的な行動もあれば、リストカットを含めた薬物乱用、自殺未遂などの非社会的な行動もあります。
それらがあると、対人関係の理想化、極端な依存、敵意に満ちた支配的態度を交互に示し、時にはひどい暴力行動を起しますが本人にはその自覚がない、そして周囲の人々を感情的に混乱させることもある、また、大きな心的負担がなければ外見上、全く問題なく振る舞うことができるという人たちが、境界性の人格障害の人達です。

境界性は人間関係力やコミュニケーション力の不足から

残念ながら家族の核家族化がどんどん進み、日本では世帯の3割が独り暮らし、7割が一般家庭です。その一般家庭の平均人数は2.30人です。世界でおそらく一番少ないんじゃないかなと思います。夫婦で二人ですよね、子どもの人数は0.3人です。
学校の先生や団体指導する先生や指導者は、グループ・ダイナミックスが働く、働かないと言いますね。やまびこの郷でも7~8人の子どもが共同生活していますね。子どもの人数が15人以上いるとどうなりますか、生活は24時間ですから、目が届かないことも出てくるでしょう。しかし、子どもの人数が少ないと、グループ・ダイナミックスが機能しない。7~8人位だとグループ・ダイナミックスが機能して一つにまとまり、相互作用が働いて、みんなで良くしていこうという関係が自然に生まれて来ます。しかし、2人や3人ではグループ・ダイナミックスが全く働きません。
そういう意味では、日本の家族機能はすごく低下をして来ています。また、地域に住む人達の一人ひとりの結び付が弱くなっています。その結果、地域社会が持つ社会教育力も精神的なのつながりも、ほとんどなくなってしまっているから、地域での教育力がすごく弱くなっています。
家庭教育もダメ、地域社会もダメ、残されている学校が全部背負い込む訳ではないのですが、補いをつけなければならなくなっています。同世代の人が、ある程度の人数で集まり、学び合って育ち合っているのが学校です。本当は子どもが成長できる最後の砦でなんです。
だけれども、本来、人間関係の基礎トレーニングは愛や信頼を土台にする家庭教育で育ち、学校へ来て集団で学ぶ力を付ける分業が出来ていれば良いのですが、その機能が家庭や地域で弱くなって来ています。充分に成長出来ずに、学校に子どもが、7歳になれば送り込まれて来ます。
人間関係のスキルが乏しい子は、学校に過剰適応してストレスがたくさんかかり、身体症状を起こす、精神症状を起こします。その状態が長く続き、思春期になると、境界性人格障害を始めとし、様々な精神疾患が発症していく、というケースが多くなっていると思います。このような境界性人格障害という病気なのか、そうではないのか、分からないボーダーの境界性を伴っているケースの場合は、医療機関と適切な連携を作っていかないと難しくなります。
心因性の不登校の子どもは、「病気のようで病気ではない。」「病気がないようだけれど実は病気がある」というような世界にいます。
別に悪いことしている訳じゃないけど、ブラックとホワイトに分けるとすると、ブラックって確信犯ですね。ホワイトって普通の人。通常はそれではっきり色分けが出来るのだけれど、今はどちらにも、入らないグレーゾーンの若者がすごく多いということです。グレーゾーンの人、これがすなわち境界性人格障害だったり、神経症の領域の人だったりします。その根底にある問題が「人間関係力」とか、「コミュニケーション力が非常に足りない」それらが、不足としている子どもが増えているという現象です。

文科省「不登校追跡調査」から見えるもの

統計的には、少し古いのですけど、平成5年に中学校を卒業した不登校の中学生3年生2万6千人が、20歳になるまでどのような経過を辿り、それを本人達はどのような評価をしているのかといった不登校の追跡調査を文科省が、平成10年から3年がかりでまとめました。
この不登校の追跡調査で分かったことの一つに不登校の状態像によって、次の状態が規定されるということです。
具体的に説明しますと、不登校の中学生が適応指導教室や民間のフリースクールに行く、または外に出ることが出来ずに、ひきこもりが継続する。
中学卒業時の進路として、高校や就職した生徒の8割の生徒が高校に行ったり、就職しました。その後、高校卒業後や卒業段階の年齢になり、そのうち、8割の生徒が大学や専門学校に進学したり、仕事を続けて行ったということです。
中学卒業時に進路が決まらず、ひきこもりが継続した場合は、その後、進学や就職をした生徒は5割います。その生徒らは、高校や仕事を続け、高校卒業時の線路選択の時には8割の生徒が進学したり、仕事を続けていることでした。しかし、2割の生徒が再び不登校になり、あるいは仕事をやめてしまい、ひきこもってしまったということです。
つまり、進学や就職を果たした生徒の8割は社会に適応して行き、高校卒業時の年齢になった場合も8割の生徒が上手く行っているということです。他方、不登校状態つまりひきこもりが継続した場合は、その後、動き出した生徒と継続した生徒の割合は5対5ということです。でも、動き出せば、8割の生徒は動き出せる流れの中にのれるということです。
やまびこの郷の卒業生では、高校にあがったけれど13%の生徒が中退したというデータを見せてもらいました。しかし、13%は少ない数字です。不登校の追跡調査では20%でしたからね。
不登校の生徒は、その次のステージに立つことが出来る力をまずつけることが大切です。動き出せば8割(継続):2割(ひきこもり)に分かれているのです。だから、仕切りなおしして、動き出す力、つまり自己有用感や自尊感情を育て自信をつけてあげてください。それには、再び、人が信じられるようになるために温かい人間関係、コミュニケーションスキル、社会に出ていくために必要な基礎的な学力等、それが身に付いた生徒は動けて、80%の生徒がひきこもらないということです。
私は、学校に適応しないより、適応した方が良いと30年位前からいっていた。何とか学校や社会に適応できるように指導していかなければなりません。児童・生徒は動きはじめれば、必ず動いていけるのです。児童・生徒の不安な気持ちを充分に受け止め、一緒に様々な困難な壁を登っていってあげれば、必ず動きはじめます。そのような指導をしなければ、5割の動けない方、動けない方へと、どんどん悪化していってしまいます。
この不登校の追跡調査、色んな角度から調査をやっています。本やデータを納めたCDも出ています。もし興味のある先生は図書館にもあると思いますので読んでみてください。心因性タイプの児童・生徒も適切なケアすれば、次のステップに立つことができるということです。

無気力化の不登校が生まれる

平成4年に登校拒否(不登校)に対するものの考え方を文部省(後、文科省)の不登校適応委員会が180度考え方を変えました。それ以前までは、「特別な家庭の特別な子どもに登校拒否(不登校)は起こる」と考えていました。それが「どの家庭でも、どの子にも起こりうる」という見方に変えました。平成4年になぜ変えたのかというと、昭和55年から平成2年までの間に調べてみると、不登校がらみの自殺の件数が40件を超えました。高校生を含めて学校に行くか、行かないかで悩み、最後は先生に見放され、親にも見放され、自殺してしまったケースが40件を越えた。
登校刺激をすればする程、子どもが追いつめられていく。そして神経症的な症状が現れる。それを保護者気がつかず、さらに「学校に行け」と追いつめると自殺事件が起きた。
そこで、平成4年に文科省は登校刺激型対応から受容的な対応への大きな方針転換を行った。スクールカウンセラーができたり、適応指導教室ができたり、進級、卒業も弾力化して行きました。高校受験する場合、不登校の生徒は内申書もなければ、登校もしていないから普通の全日制高校に行くのは大変でした。ところが、高校もわけが分かんないサポート校とかいうもの出来た。不登校の子どもに寄り添うように、いろいろなものが整備されていきました。ところが平成6.7.8.年の段階で不登校が急増したのです。平成4年の頃は、全国で不登校の義務教育課程の児童生徒が3万人位だったが、平成10年になると、10万人を突破してしまったのです。
どうしてそうなっちゃったのか訳が分かりません。文科省に「原因追及をしていますか」と聞いたら、していなくて、追跡調査をやってみましょうということで、平成10年の追跡調査につながっていくんですけど、私のNPOで、平成15年に横浜市教委の協力を得て、横浜市の小・中学生の親と子どもにアンケート調査をやりました。そうすると以前は心因性が6.7割いたのですが、無気力型の方が増えて6割、心因性3割、その他1割になっていました。平成17年に、今度は岡山市の市教委の力を借りてしました。そうすると、岡山市でも同じような傾向がありました。
すなわち、今までの3万人近い心因性のタイプの不登校が、一気に6万人に増えたのではなく、新しいタイプの無気力型が生まれたんだな、とその時分かったんです。不登校が特殊な目で見られなくなって、大衆化し、クラスで「○ちゃんも○ちゃんも休んでる。でも、あの子たちも中3にあがれたんだって、いいーよなぁ」「中3年になって、少し学校に戻ってきた子もいるけれど、あの子達だって、行く高校あるんだ。俺たちは毎日サッカー好きでやっているけど、勉強もサッカーも大変だけどやっているけど、あいつらみたいに、マンガ読んだりゲームやってた方が楽かも知れないなぁ」と、思う子が実際は増えているだろうと思うんです。自分も学校を休んで好きなことして過ごそうという付和雷同型の子どももいる筈である。
そんな生徒が不登校になっても、マニアル化した受容的対応になっていった。「待ちましょう」「様子を見ましょう」、「見守りましょう」という傾向がスクールカウンセラー中心に強くなって行ったのです。いわゆる登校刺激という対応が弱くなってきた段階で、何となく無気力な子ども達が生まれて来たのだろうと思います。だから無気力型に対して、心因性のタイプの対応をしていくと、ひきこもりの長期化や労働感が持てない若者の登場という新たな難しい問題が起こって来ますと、いうことですよね。
無気力型って言っても、実は昔からありました。私が大学生の時代でもモラトリアムというのがありました。その当時は高度経済成長期でした。受験勉強して、大学に入ったんだけど、大学の授業は面白くない。このまま、勉強をして、自分がこの仕事について働いて行くイメージが掴めない。もっと、向く仕事があるかもしれない。でも、何していいか分からない。大学に行くよりはバイトしたり、お金貯めて海外に行ったり、していた方が良いのではないかと、言ったように自分の人生の決定を先延ばしにしていく。モラトリアムとは執行猶予という経済用語です。でも、モラトアリムの人たちは、自分の目標が明確に見えてきたり、これがやりたいと思ったら、モーレツに勉強して司法試験に受かって弁護士になったり、僻地の医者になったりした優秀な奴がいたりするわけですね。
モラトリアムという言葉は、慶應大学精神科の小此木啓吾先生が昭和57年に「モラトリアム人間の時代」という本を書きました。平成になってしばらくして、情熱、気力、それがない子どもたち、いわゆるモラトリアムとは違うのですが、重なるところもある無気力型のアパシー(ア・否定、パシー・情熱、情熱がない)の人たちが出てきたということです。極端に生活リズムが乱れたり、長期間引きこもるような生活はしない。でも、仕事をするとか学校に行くとか、それ以外のことは普通にしている。本業はしないけれど、将来についての漠然とした不安はあるが気にならない。何かをしなければならないけれど、どうにかしようという葛藤が表面に出てこない人達です。
本人にしてみれば、生活には困ってないのだから、何となく時間をやり過ごして生活している方が気楽でいいと言う。それほど普通の人とは変わらないけど、本業はやらない、という人たちが平成になってから現れてきたということです。特徴としては男性に多く、以前は大学生が中心だったが最近低年齢化が進んで、モラトリアムの時代の思春期も長くなって就職するのも30歳近くの人が多い。
今の若者は昔に比べると大人になかなかなれない。自我の確立も、昔は18歳位だったけれど、今は20歳代中頃になってきている。女性に対して差別用語になるかも知れないけれど、昔は適齢期という言葉があった。遅い人でも25歳過ぎたらどうしようと悩んでいた。今は全くそういうことはなくなって、しまった。あるとしたら30~35歳で10年位遅くなった。35歳になると、高齢出産になって、産まれてくる赤ちゃんに色々な問題が出てくる可能性も高い。そういう意味では、長びいた思春期と言われるようになった。無気力型の不登校の生徒は、無関心、無気力、無感動、目標や進路・生き甲斐の喪失、自我の確立などの不確定な状態が継続する、不安や焦り、抑鬱、苦悶、苦痛感、後悔などの苦痛感が薄い、そのために問題意識がない。カウンセリングは望まない。自らの状態の認識、葛藤がなく、その状態から抜け出す努力が見られない。対人関係には敏感で、叱られたり拒まれたりするとひどく傷つく。
自分が確実に受け入れられる場所以外は避けてしまう。苦痛の伴わない体験は、どうしてそうなったのかという葛藤に結びつかず、無気力、退却、約束破り等の行動が現れることもある。激しい行動としての暴力や自殺未遂などは少ない。近年このようなタイプの人が、大人になり社会人として働き出し、軽鬱(現代型うつ)を訴えることが多い。無気力、無感動、なんとなく仕事をしなければいけないと思うが本心ではない。仕事はじめて1.2年経って、軽鬱の状態が起る。昔の大学生みたいな自殺未遂はない。
今の若い人たちは、いわゆる好きなことはやるけれど、好きでないことはやりたくない。やりたくないことを我慢してやっていると、そのうち軽鬱になっちゃう。で、お医者さんに「鬱ですね」と、言われて、こりゃしばらく会社休めるぞ、と思う人が結構います。
これはつまり、社会性や自我の成長が遅れていて社会性が身に付いていない、ということが大きく影響していると思います。背景はさっきからお話ししていますので、ここでは飛ばしていきます。2-2と2-3です。その結果、どうなっていくのかが2-4です。心因性、アパシーは2-4のところに表しています。
小此木 啓吾(おこのぎ けいご)1930年1月~ 2003年9月日本の精神科医 、精神分析家。

退行と感情の分化により情緒の安定へ

不登校の本質的な問題は不安と緊張の理解です。幼い時、母子の充分な情緒的交流ができていないと感情が分化せずに、未分化のままで情緒不安定が起こる。不登校の子の退行と感情の理解をするために、感情の分化の研究をさんざん研究し30年位経ちます。この問題は「なぜ不登校が起きるのか」という本質的な問題とも、つながります。もう亡くなってしまった先生ですが、新潟大学の名誉教授で石郷岡泰先生という人がいます。私の師匠の1人なんですが、その先生とさんざん研究したのが感情の未分化っていう問題です。例えば0~6歳の時に、赤ちゃんが、「おぎゃー」って、生まれたばかりの時は感情は快適の快と不快の2つしかない。
赤ちゃんは言葉を喋りませんね、2~3歳位までは世話する者がないと生きられない。ひとりで生きることができない。お腹がすいたよ、熱が出たよ、部屋が寒いよ、具合が悪いよ、眠いよ、おもちゃが欲しい時などは、不快を表して、お父さんお母さんに訴えている訳です。
反対に快適な時はニコニコしています。感情は快と不快2つしかない。ところが、お母さんとの関わりの中で、赤ちゃんの感情は分化していきます。例えば、お母さんがこの子を抱っこしていて、「だんだん重くなってきて、健康に育って嬉しいわ」と思ったら、その感覚を投影同一視して「嬉しい」という感覚を刷り込んでいく。だから、楽しい、嬉しい、寂しい、悲しい、辛い、色んな感情が人間にはあります。それらはお母さんとの関わりの中で、無意識のうちに刷り込まれていく。情緒的な母子の交流を通して感情が分化していく。その分化とは、ちょうどビーカーの中に泥水を入れて、しばらく放置しておくと、だんだん泥が底に沈殿し、上は透き通った水になりますよね。一晩おいておくと、だんだんそれがハッキリと分化します。
子どもの感覚で、よくあの子とはフィーリングが合うとか、合わないとか、言いますよね。何かお話しをして話がぴったり合うと、あの子とはフィーリングが合うというのですね。自分の感情の一部が反応し、同じように友達も同時に反応したら、フィーリングが合うというわけですね。不登校の子どもは、大抵その辺の分化が変に細か過ぎるか、大雑把だったりする。そんな感情があると、みんなが楽しいと思っているのに、自分はちっとも楽しくなかったりする。なんであんなことが楽しいのかな、運動会でみんな盛り上がって、高揚してくるというか興奮してくるというか、「よし頑張ろうぜ」っていう気分になっていけど、自分には、そんな気持ちはどこにもない。でも、1人だけ白けていると、なぜ、みんなと一緒に応援しないのだ。と言われたり、いじめに遭う場合もあるから、表面上は、自分も楽しそうに演技し、参加していく。そうすると、本来の自分ではなく、仮の姿を作って過剰適応していくからストレスを感じてしまう。本来、楽しいはずの運動会がちっとも楽しくないということが起こる。
母親に、この子が「0~6歳の時に何かありましたか」とお母さんに聞いてください。完璧な母親や父親はいないから、完璧な人間なんていないんですね。みんなそれぞれ大変なのです。例えば、夫婦関係の問題、経済的な問題、職場の人間関係等、ストレスを社会から受けて家庭に持ち帰って、子育てをやっているが、ストレスとか、気になることを、赤ちゃんに投影してしまう。そんな関係を自然にやってしまうことが多い。赤ちゃんはお母さんの感情と同一視して感情の刷り込みをやってしまう。
反対に、お母さんが育児を楽しみ、子育てに幸せを感じ、そこに起きる自然な感情を細かく表現し、情緒豊かに、赤ちゃんが関わって貰えた子どもは不登校になりにくい。お母さんが仕事、子育てに追われ、忙しくて心に余裕がない。なかなか、子どもと遊ぶなど関わってやれない。今、ご飯作っているから、静かに、おりこうさんだから、テレビを見ていなさい。あるいは、シマジロウのビデオを見ていてねといった、子育てをやってしまうと非常に危険です。まして、シマジロウのトイレトレーニングなんかやって、オムツを早く取ろうと、1歳になってあれをやっていくと、思春期に不登校になる事例が多いそうです。幼児教育や問題行動を研究している研究者で金子保先生は、テレビ・ビデオ子育てをやった人と、母子が日常的に細かく情緒的交流しあった子の場合、発達障害が発症する割合に、大きな差が出るという。言葉を変えて言うなら、テレビ子育てやゲーム子育てをした子どもの場合は、発達障害が発症しやすいと言うことです。発達障害の要因はみんな同じように持って生まれてくるんだけど、環境や育て方によって大きな違いがあるということです。発達障害の子は感情の分化が出来ずに未分化のままの状態の子どもが多い。
石郷岡 泰氏(いしごうおか・やすし)1932~2003日本の社会心理学者
金子保幼児教育研究者、教育相談

退行に対する具体的な対応

発達障害ではないが、感情が未分化だと不登校になる可能性が高い。その子が不登校になって、親が登校刺激をしても、良くならないと思い、それをやめると、退行を起し、幼児戻りが始まり困るという。どうして困るのかと尋ねると、母親が寝ていると、ベットに中3の170㎝を越えるようなニキビ面の子が潜りこんで来るというのです。場合によっては、おっぱいを触ろうとする。下半身を触ろうとしたらセクハラで完全におかしいのだけれど、おっぱいは触ろうとするというような幼児戻しが実際には起るのです。赤ちゃん帰りした時、身体は15歳でも、心は2~3歳児位の感覚です。退行した時、お母さんが受け入れを拒否したら未分化のまま止まってしまったり、拒否されたことから信頼感が持てなくなって断絶が起ったり、激しい怒りが起り暴力におよぶ場合があります。
お母さんが、この子、中3なんだけれども、もしかしたら退行し幼児戻しを起こしているのだな、と思って、気持ちの上で幼児と同じような対応をしてあげると、すごく落ち着いて安定してきます。
子どもが求めた時は、しばらくはそれをやり続けると、そのうちやらなくなっていく。自分の感情をお母さんの感情とすり合わせ交流することによって、未分化な感情を分化させていきます。
これが思春期におこる発達課題のやり直しです。これは不登校の子だけに現れる現象ではありません。不安なく普通に学校に登校している生徒も同じようなことをやっています。時にはふて腐れたり、甘えたりを自分の気分で母親にしています。でも、不登校の子のように明確な態度でやらないだけです。でも、この発達課題のやり直しは、やがて、大人になるためには、たりないところを補う大切な行為であり、これが充分にできないと、大人になれない大人になってしまうのです。退行をきちっとやり治した心因性の子は二度と、不登校にはなりません。
子どもが退行現象を起こしている時に「家庭訪問しましょう」と、家に行くと「何じゃ、こいつ、来なくていい、帰れ!」って、先生に対して平気で言われることがあります。これを、恋人同士にたとえてみましょう。恋人同士が仲良く、いちゃいちゃしている時に、第三者が入ると嫌がられるに決まっていますよね。それに近いような二者関係の状態であるわけです。
だから、子が(大きな子)が退行している時は、小さい子なら本能的に起る母性本能が起きず、無理を承知で対応しなければなりません。しかし、感情が入っていなかったり、ちょっとでも手を抜くと、子は必死に求めているのですぐに気が付いてしまいます。だから、お母さんは非常に疲れてしまいます。それこそ、母親が、拒絶の感情を示したり、情緒不安定から感情の起伏で対応すると、子どもは極めて不安定になったり、境界性の人格障害や不安神経症等の精神疾患になる場合もあります。そうなると、親子共々長期間、どん底に落ちちゃいます。
生徒が退行している時は、基本的には生徒直接対応するのではなくて、親を支えてあげてほしいのです。「今、お子さんは退行しています。退行は不安を取り除き、大人になるために必要な課題克服する大切な行為です。子どものこころが安定すれば、必ず終わります」などと親に言ってあげて、精神的に安定させてあげましょう。そうすると、母と子の感情はつながっているので、同様に精神的に安定していきます。
子どもが母親を支配独占する退行が一時的に終わると、子はあっさりと親を見捨てます。お母さんは非常に寂しい感じがするんだけれど、「あぁ、よかった」って、言うと、子はひねくれてしまうという感情があります。15歳の私もいるけれど、3歳の私もいる。ちょこちょこと気分が変わるわけですね。
退行すると不登校が早く直るから、退行させてやろうと思って、感情的に15歳の男の子の頭をお母さんが撫でました。そうしたら、お母さんが子どもにぶん殴られた。「バカにするんじゃねぇ」と・・・。
15歳の子が母親に甘えて来た時、(退行してきた時)には、その対応でいいけれど、母親の方から求めてはいけません。感情が分化していない状態で学校に戻ったら、また、過剰適応してストレスから自律神経失調になり、体調が悪くなる。しかし、未分化な感情が退行によって分化できたら、心の底から笑って友達といても楽しいなと思えるようになる。こういう状況ができた時に学校にきちっと適応していけるのだと生徒自身が分かっていきます。

仮想社会に生きる子

対人処理の能力が低い、いわゆる人間関係能力の不足から、人との関係が煩わしい。こういう生徒が最近、多くなって来ました。そんな生徒は他人との関係は楽しいより、煩わしいと、いうような感覚を持っています。現実社会より仮想現実の方が匿名社会のようで常に第三者でいられるから居心地がよいのです。
平成10年位から高速度で大容量を送ることができるブロードバンドが普及し、定額契約ができるようになって、インターネットが急速に普及するようになりました。パソコンも高機能・高品質のものが非常に安くなりました。その頃、従来から流行っていたテレビゲームソフトが最高の売上高になったが、それをピークに売上が落ちてきた。平成10年、以降、何が出てきたのかっていうと、パソコンでやるオンラインゲーム(ネットゲーム)が流行ってきたのですね。その頃はラグナログが若者に人気があった。今はメープルストーリーの時代ですね。みんな、韓国製のゲームです。日本製でも、ファイナルファンタジーがオンラインもやるようになった。その頃は、まだ、韓国系の小さな会社でしたが、オンラインゲームが、その後、爆発的に流行るようになって行った。今はメープルストーリーを作っている会社はプロ野球のロッテのオフィシャルスポンサーです。私は阪神タイガースのファンですが、千葉マリーンスタジアムで行われる交流戦をテレビで観戦していると、「オンラインゲームはネクソン」と書いてある。ロッテの選手のユニフォームにもロゴが入っている。オンラインゲームの会社が野球の球団を持つ時代になったのかと驚いてしまう。
現実社会の人間関係は煩わしい。しかし、匿名の仮想社会だったら楽しい。オンラインゲームの中では、ゲームのことしか、みんな話しをしないから楽。無気力な子は、家にいて学校行かない。そんなこと何も知らない私はその当時、心因性ではない子で一見普通に見える生徒に「元気そうだから家にいたら楽しくないんじゃないか?」って聞いた。無言が続くので「学校で勉強するのは大変かも知れないけど友達と遊ぶのは楽しいだろう?」「家に居ても、何にもやることがないなら、やっぱり学校行く方が楽しいんじゃない?」とたたみかけた。ところが、無気力な子は意外な答えを返して来た「家に居たって寂しくないよ」「ひとりでも寂しくない、どうして・・・」「インターネットの中に友達が何百人もいるよ、自分の指示で何百人動くよ」という。
現実社会に心はない、インターネットでつながったパソコン画面の中にある仮想社会に、心がいってしまった子どもが増えて来ている。オンラインゲームはテレビゲームのようにクリアがない。エンドレスゲームであり、ひとり遊びのゲームではなく、参加者がグループを作って冒険、闘い、生活を仮想社会でみんなで楽しんで遊ぶゲームであり、依存するような仕組みになっている。例えばサラリーマンの人もオンラインゲームをやっている、しかし、サラリーマンは忙しい。平日は一日2時間程度しかできない。その点、不登校の子は時間がありあまっている。やっている子は最低でも一日8.9時間位はやる。オンラインゲームでは長時間やればやるほど経験値のポイントは高くなっていく仕組みになっている。だから不登校のネット依存の子は、仮想社会の中でどんどん地位が上がり、アイテムやゲームマネーが貯まっていく。多くの人のゲーム参加者の信頼や支持を得ていく。しかし、現実社会では不登校、出席数も成績もないから内申書の評定はない。その上、友達もいない。それを考えると不安になるから、その不安を払拭したいから、さらにのめり込んでいく。依存症の始まりである。
一方、サラリーマンは仮想社会のアイテムの彼(彼女)しか、知らない。同じネットで遊ぶ世界では住むところが違うくらい差がある。嫉妬まじりではあるが面白くない。そこで、サラリーマンは何をするかと言うと、オンラインゲームの運営会社から経験値が増えるアイテムを買う。例えば、経験値4倍というアイテムを2.3千円出して買う。サラリーマンにしてみればたいしたお金ではない。2時間プレーすると4倍の8時間やったことになりポイントが上がっていく。
お金のない小中学生はアイテムを買えないから8時間やらないと、もし、サラリーマンと同じグループを組んでいると、差が付いて行くので仲間に入れてもらえない。そういう仕組みになっている。ほとんどのゲームが仲間を作って、モンスターを倒したり、相手方(敵)のグループと戦闘をやって勝つと相手の武器や財宝を奪取っていく。負ければ取られてしまう。だから、仲間はずれになるとゲームがやれなくなる。グループの仲間が強いと、普通は8時間以上毎日やっている。毎日8時間やらなきゃならない。ゲームの世界でも誤った義理と人情の世界がある。サラリーマンの人は2時間でもOK。武器や魔術がなければお金を出して買えばよい。普通サラリーマンではオンラインゲームの好きな者は月2万円弱アイテムを購入する。ゲームをすることは無料。でも、アイテムを売り買いすることによって、ゲーム会社は儲かっている。そして、プロ野球団をも、持てるようになる。子ども、若者のネット依存をどんどん作り出していく。
去年5月頃、韓国でオンラインゲームを通して、知り合った夫婦、旦那が35歳、奥さんが20歳なのだけど、この夫婦、現実の世界でふたりの間にできた赤ちゃんを子育て中なのだが、夫婦とも育てゲームにはまってしまった。現実の赤ちゃんの面倒を見なかったから餓死した事件があった。
それで韓国政府はこの事件依頼、オンラインゲームを長い時間やっていると、制限を掛けるようになった。2時間以上やったら制限のかかる時間制限法ができた。そして、依存の人が少し少なくなってきた。日本の場合は、何の規制もなく、施策もありません。どんどんオンラインゲーム人口が増えてきている。
子ども達に人気のメープルストーリーを配信しているネクソンのHP見てください。僕も、ネット依存の恐ろしさを知ってもらうために、NHKのプロデユーサーと、一緒に見たんです、HPに電話番号がない。住所はあるのでNTTで調べてもらったのですが、電話番号は登録されてないのです。でもプロ野球球団のスポンサーです。連絡を取ろうともしてもできないので、NHKの人が、思わず、「ネクソンで暴力団が経営しているのですか?」って・・・。「そんなことはないでしょう」と私。
子どもたちは結構はまっている人がいます。オンラインゲームに・・・。普通のゲームのソフトを買って専用機でやるテレビゲームは、クリアすれば終わる。せいぜい2.3週間は、はまるけどクリアすれば終わるから依存にはならない。しかし、オンラインゲームはエンドレスであり、一1人遊びのゲームではないからあきがこないばかりか、依存症になるような仕掛けが随所にある。そして、パソコンを持っている人は、ゲーム配信会社のHPに行けば、そこから無料でダウンロードすることができる。何時でも、どこでもできるオンデマンドです。さらに、日本では匿名でできる。めんどうくさい人間関係を気にしなくてできる。5.6人がグループを組み、夜中の2時、3時に敵やモンスターと闘っている最中、「僕は明日学校あるからこの辺でバイバイね」なんて言ったら、チームでのそれぞれの役割分担の戦闘体勢が崩れ、全体が潰れる可能性があるから、朝の4時、5時まで付き合わなくてはならない。
学校には来るけど、1.2時限目の授業は、受けるけど3時限間目からは保健室のベットで寝る生徒は「具合悪い」と言っても、絶対あやしいと思ってください。そのうち不登校になります。
テレビゲームはまだいいけれど、オンラインゲームは非常に危険です。日本では、男子はゲーム依存になりやすいけれど、女子はいわゆるコミュニケーション依存になる。メールを出したらすぐ返さなきゃいけない、1日100通も、120通もやるというのは女子です。その辺のことをきちっとわきまえていかないと、これからはまずいと思います。
コミュニケーション能力が不足している人や人間関係力の不足がある人は、現実社会が煩わしいから仮想の匿名社会に逃げこみやすい。だから、現実社会は豊かで楽しいということを教えてあげることがすごく重要なのです。やまびこ学校にやって来た児童・生徒が、人と人が信頼関係でつながり、人間関係ができ、楽しいなと思ったら、それだけでゲームの世界から離れていく。仮想社会から現実社会に戻って来たということです。それは、現実社会における様々な自分自身の問題とも向き合うことが、できるようになったということです。現実社会に、どう児童生徒を引っ張りあげていくか、ということがすごく重要なのだろうと思います。

社会性が育たない子

自主性、自発性を育てる、今までは、親が言う人生の道を歩いて来たが、思春期に入り「自分の行く道は自分で考えなさい」と親に言われて、どうしたら良いのか分からない。例えば、高校2年生になった。「理系に行くか、文系に行くかは、親が決めるのではなく、自分で決めなさい」と言われると、「どうしていいか分かりません」と言う高校生が多い。それまで親が全部決め、お膳立てをしてくれた。「どうして、急に、ここで決めなくちゃいけないの。どうやって決めたらいいのか分からない」という問題が起こります。女子、独特の摂食障害も、軽うつも、この時期に現れることがあります。
不完全な自分、未熟な自分を自覚しているから、社会に出る時にすごい不安がある。仮想の自分が問われて、責任がかからなければアルバイトしたりすることはできる。
アパシーの人たちも、勤めはしないけれどアルバイトは頑張る。半年くらい頑張って、そこの売り場の責任者になりなさい。時給30円アップしてあげるから頑張りなさいと正社員に言われると、次の日から来ない。責任のかかることなんかまっぴらごめん、レジを打ちなんて絶対にやらない、なるべく責任のかからないことだけをやっていきたい。それが10代なら分かるけど、20代後半になっている人もかなりいる。
ストレスの伴うのが心因性と考えられる。
身体症状が伴わないのがアパシー型と考えてください。
心因性の反応が伴わないアパシー型の基本的対応としては、不安はそれほど強くないので、学校に行かなくても外出しようとする。保護者や先生には理解しがたい行動だ。行動力は反社会的行動でなければ個人の自主性、自発性をつけるため重要なトレーニングになる。しかし、この行為に全く規制をかけないと、好きなことはやるが、他のことは何もやらないというオタク型に移行する可能性がある。やはり何らかの規制を掛け、「どうしてなのだ」と言う、葛藤を起さないといけない。葛藤が起るような言い方や追い込み方も研究する必要がある。オタク型になると、幾つになっても、本当にゲームとマンガとアニメの世界だけの人間になってしまうことが多い。何万円もするフィギヤを何体も自分の部屋に並べ、ニタニタ眺めて暮らす40過ぎのニート男は本当にいるのです。
若い時に自主性、自発性を高めるための話合いを実際にしてみて、行動してみる、いわゆる認知させる。そして、行動をした後で、「これは問題ない」「これは、こういうところに問題がある」と、ひとつひとつ本人が納得するまで、理解させ、また話し合って、行動させて、認知し、完全に出来たら褒めて認めてやることを、繰り返さないと、なかなか変化することができません。
用意した話が、最後まで終わらないので申し訳ないですが、基本的には6ページ目のところと、学校や社会参加についてのところです。よく読んで理解してください。
一番重要なのは、最低、週一回は食卓を家族で囲むとか、テレビ等を消して、全員で一つの話題についてコミュニケーションするとか、家事を家族全員で行うとか、あたり前のことが今、日本の家族の暮らしではできなくなっているということです。
特にアパシー型の場合、男子が多いから、家族の団らんの中にお父さんが加わること、それとお父さんとのコミュニケーションを豊かにすること。お母さんは優しく受容してくれる人でも、お父さん、父性性は大切です。それは、家庭と社会をつなぐ役重要な役割を果たします。「ダメなことは絶対ダメ。お父さんと取り決めたことは確実に守る。」というような父性性原理です。河合隼男先生は「切る原理」と言いました。それに対し、母性性は真綿で包む。子どもは両方がなければ育たないのです。
どちらかというと、アパシー型の場合は、学校や社会に出て行く時に、ちゃんと切る原理を働かさないと出て行かない。だから、父親との関係を豊かにすることが一番重要なことです。
「父親を巻き込んでいく」「父親を巻き込むためにはどうするか」を考えていく必要があると思うのです。「仕事で俺は忙しいのだ。子育てはお前に任せてあるんだ」では、子どもは育たないという時代です。お母さんだって、今は働いている時代です。意識して、母性性、父性性を働かせなければ、子どもは育ちません。それぞれの役割は、違って、男子の場合は父性像を作らないと治っていきません。だから理解ある父親を育てて、巻き込んでいくことが重要ではないかと思います。7ページ目のところ、そういう意味で社会性を獲得しなければならないこと等を書いてありますので、帰りに読んでいただけたらと思います。時間をオーバーしているので、お話はこれくらいにして、質疑応答に移りましょう。
河合 隼雄(かわい はやお)1928年6月~ 2007年7月、日本の心理学者・心理療法家

質疑応答

Q: 母子家庭の中2女子生徒。家では家事をよく手伝う。アパシー型と思われる。お母さんやお姉さんと買い物もできる。近所のお店にも行ける。学校の話をすると怒り出す。家族のコミュニケーションはとれているが、今後どうすれば?
A: お母さんとの関係が良好の場合は、母子共依存である場合が多い。母子が一体化してしまっている。アパシーというよりは、共依存タイプでは?お母さんもその子がいるから頑張れる。その子も、お母さんがいるから頑張れるという共依存のケース。お母さん自身にどうやって、それを気づいてもらうか。母子家庭の場合、精神的につながっていて、お母さん自身がその子を通して、自分の存在があるように感じている。お母さん自身の自立、精神的切り離しをしないと、自立的自発的に成長できない可能性が高い。お母さんに気づいてもらうことが大切です。
Q: 母子家庭で無気力型の男子、母親への支援は?
A: 思春期になると、体は自然と成長し、子どもから大人の体に変わる。しかし、男子の場合、心の問題は、大人のモデル像が明確でないと脱皮していかない。母子家庭の場合モデルになる人がいない。学校に行っていれば男の先生をモデルにしたり、社会に出れば関わりのある人を大人のモデル像にすることができる。しかし、不登校になるとモデルになる人が出来ないから成長が止まってしまう。お母さんの兄弟がもし、近所に住んでいたら、そこから支援の輪を広げてもらう。おじさんに家に来てもらって、公園で野球とかサッカーなどに連れ出して活動することが必要です。大人の男性になること例えば、役割みたいなものを植え付けないと成長が止まってしまう。男性教諭とペアになって支援していくことも大切、先生でなくても大人の男と人格的な関わりをしていくと成長が早い。その仕組みを整えて、そのような関わりをしていくとよい。
Q: 小6男子。無気力型でお父さんが自分も不登校だった。お父さんは、「(自分も)ほとんど学校に行っていないが、今は普通の暮らしをしている」と言う。学校から提案したら「協力はする」と言っているが、どこからどう話していったらいいのか?
A: 不登校だった男性がお父さんになった場合、その子どもの7割は不登校になっている。東京都の一部の区の調査では、男の子の場合、不登校の連鎖反応が起こっている。お父さん達は自分もそうだったが社会に出れたから大丈夫、と言う。しかし、昔は学校では育たなくても、例えば、職人文化があり、親方が父親の役割をしてくれて一人前にしてくれたが、今は職人文化が非常に小さくなってしまった。社会形態がだんだん変化してきているから非常に難しい。今、時代は人間関係を使わない仕事なんて、日本にはなくなってしまったんで、昔は職人の世界では腕さえあれば、人間関係が苦手でも食べて行けた。今はすべての仕事が、人間関係力が伴ってくる。学校に行けなくても、人間関係が磨く場に入れていくようにしたい。 不登校の最終目標は、文科省も「将来への社会的自立」ということ。社会的自立のためには学校へ行けないより、行けた方が良い、人との関係を豊かにする形、いきなり学校ではなくて色んな人がいるところに一歩に踏み出せないだろうか、適応教室とか、ゆるやかな組織のところに入れないだろうか。多分、お父さんの時代にはなかったが、今の時代にはあるから取り組みの仕組みをきちんと説明してあげることが大切だと思う。
Q: 現在中3、小4から全欠で引きこもり状態。保護者の理解が得られないがどのようにしていけばよいか?
A: 強迫神経症の疑い。こだわりが強い、お風呂に入れないなどの場合、自分の部屋を聖域にしてしまって他人を入れないとか、親との関係がうまくとれない等の場合は、年齢が上がるにつれてどんどんこだわりがひどくなる。そして、正常な日常生活そのものが営めなくなる。このような状態では、学校の支援も必要なんだけど保健所の協力も必要です。医療機関につなげること。強迫神経症そのものを改善する方法として医療機関と共に精神科の先生に相談し、保護者と連携を取った形ですすめると、入院や治療をすることができる。改善策としては、神経症の子は薬で良くなってきたことによって、全体像を改善していくが、この場合は投薬はだめだろうと思う。 まず、父子関係がからんでいるのでここを改善していかないと。父子関係を隠す場合は、ネグレクトの可能性もあるので、教育的支援だけではなく医療的支援も含めて対応していくとよい。児童相談所とも相談して、そこに関与してもらうと法的保護ができる。

以上