虐待されても子は親をかばうもの

- 不登校引きこもり Q&A 教育新聞連載 No.3 -

Q 小2の担任です。クラスの子どもが最近、学校で元気がなくなったのが気になっています。顔色が悪く、長袖をまくったときに痣がみえることがあります。養護教諭に相談したところ、その子は体の他にも痣を作っていたことがあったと聞きました。本人に痣について聞いても、転んだとしか言ってくれません。担任はどのように関わっていったらよいのでしょうか。

A  担任として、対応に苦慮し、心も痛みますね。元気がない、顔色不良、腕に痣、身体の他の箇所にも痣。という条件が重なっていることから考え、もしかして「児童虐待では」と思い、本人に尋ねても、親を庇ってか、「転んだ」と答える。

 このケース、児童虐待と考えて間違いないでしょう。

 児童虐待を受けている子どもの心理は、「親に嫌われたくない」これ以上、嫌われたら生きて行けないと、小さい子であれば、あるほど、感じ、親を庇うことがあります。また、身体的虐待やネグレクト(育児放棄、監護放棄)を受けても、「自分が悪いことをしたから、仕方がないのだ」と思い込むことが多いようです。
 虐待は影に隠れた犯罪であり、なかなかその実態は見えてきません。見過ごしているうちに、子どもの健全な発育や発達を大きく阻害する要因にもなります。また、場合によっては、死に至る事件にも発展しかねません。

 虐待が背景にある行為には、多動、盗み、火遊びの繰り返し、自傷行為、激しい暴力やパニック、断続的な欠席、下校渋り(帰宅拒否)などがあり、教師が日頃から注意して児童生徒と接していれば、早期に発見する事例も多いのです。

 いじめはどの学校でも起こりえるという認識が大切なように児童虐待も、どの家庭にも起こりえるという気持ちでなければなりません。児童虐待は平成12年に「児童虐待防止法」が施行され、学校の責任や役割も明確になってきました。同法によれば、児童虐待とは保護者が18歳未満の者に対して行う次の4種類をいいます。

 (1)身体的虐待(外傷を負わせる暴力又生じる恐れのある暴力)
 (2)性的虐待(わいせつな行為をすることやさせること、ポルノの被写体も含む)
 (3)ネグレクト(心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間放置)
 (4)心理的虐待(著しい暴言や拒絶的な対応、該当者のいる家庭での配偶者間の暴力)
 などがあります。

 また、保護者が虐待ではなく「しつけ」だと主張する場合のおいても、親の意向いかかわらず、子どもに悪影響が及ぶ場合は虐待と考える必要があります。
 もし、質問のような状態であったら、担任教師や学校だけで抱え込まず、「児童虐待防止法」に従い、速やかに市町村、都道府県の設置する福祉事務所もしくは児童相談所に通告しなければならない義務があります。また、この通告は児童委員(民生委員)に仲介をお願いしてもかまいません。

 この通告は公務員などの守秘義務を優先し、通告を受理した機関は、その通告したものを特定させるものを漏らしてはならないとされています。
 虐待は学校が単独で、保護者に対して注意し指導することが、虐待をより深刻にさせることがあります。児童虐待への対応の基本は「一人や一機関で抱え込まない」「疑わしきは通告と連携」とされています。
 担任としては、虐待を発見し、関係機関に通告することが大切です。しかし、虐待の対応は通告で終わるだけでなく、児童相談所や市町村の要保護児童対策地域協議会など、権限と守秘義務のあるネットワークの一員として、連携に基づいた支援を続ける必要性があります。

(注 参考文献 文部科学省 指導提要 「学校の虐待対応」 H22年3月)

平成22(2010)年8月9日(月曜日)教育新聞掲載 文責 牟田武生