つんでれママ(2)
- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.39 -
あまりにも息子を「なんとかしろ」という母親の小言に閉口し、父親が息子を若者自立塾に連れて来た。だが、生活をしてみると何も問題のない若者だった。就労体験先でも、影日なたなく真面目に働くので評判がすこぶる良い。就労体験先の社員からは、「彼がなぜニートなのかわからない」と言われる。
ここでの生活はどうかと彼に聞くと、「景色はいいし、毎日温泉に入れるから快適です。そして何よりもいいのは、あの母親から離れられて最高です」という答えが帰ってくる。
「母親は他人の前では私をぼろ糞に言って、二人になると態度が豹変するのです。訳がわかりません。たぶん、自分自身がないのです」
「自分自身がないって・・・」
「母は昔から家では僕が何にも出来ないと思っているらしく。私の世話をすることが生甲斐だと思っているのです。僕が元気ないと母は生き生きしてくるし、僕が楽しく友達と遊んでいると、病人みたいに元気がなくなってしまうのです。人前では他人にどう見られているか気にし、母は自分一人では生きられない女なのです」
3ヶ月の自立塾での合宿生活が終わりに近づく頃、彼に私は尋ねた。
「修了後、富山に残る、それとも、横浜の実家に帰ってから仕事を探す。どうする?」
「本当は富山で就職して、一人暮らしをして自立した方が良と思いますが、母が悲しむので横浜に帰ります」
彼は横浜の実家に戻り父親の会社の関連会社に無事就職した。卒塾後、2ヶ月してから、私の事務所に訪ねてきた時はもう立派な社会人だった。
「残業の毎日で仕事は忙しいけれども毎日が充実しています」と言う。
「お母さんはどうしている」
「父親は先生にとても感謝して喜んでいるみたいなのですが、母親はうつ病だといって、寝てばかりで家事もしなくなってしまったのです」
「それは困ったね」
「先生、母親を元気にさせてください」
「お母さん、カウンセリングに来れるの?」
「さあ、母親は先生のことを憎んでいるようなことを言うから、父親が勧めても来るかなぁ・・・」
「どうして、私を憎んでいるのかな?」
「・・・・・・母のことはわかりません」
新年を迎えしばらくしてから、母親ではなくて、どういう訳か、父親がカウンセリングに見えた。
「先生、困ってしまいました。息子は元部下がやっている子会社に就職させ、元部下(子会社の社長)からも「よくやっている。もう心配ないですね」と言われ、今年は良い正月が迎えられると思っていたのですが、息子が年末に風邪を拗らせ熱を出したのです。そしたら、母親が急に元気になって、甲斐甲斐しく息子の看病し、『そんなに仕事大変ならば辞めていいのよ』といってしまったのです。年が明け、息子は風邪が治っても会社に行かないのです。息子は『僕はもう駄目だ』と言って元気がないのですが、母親は元気そのものなのです。どうしたらいいのでしょうか」
「息子さんとは、以前と違い私達は信頼関係があります。お父さん、もう一度、富山に連れ出してください。母親と離し、彼を向こうで自立させましょう」
お父さんは息子を説得し、一ヶ月後には富山で就職し自立を始めた。
早咲きの桜が咲く頃「お父さん、奥様を支えるのは貴方の仕事です・・・」と私は言った。
「先生、私の人生は仕事中心でした。自分では出世したと自画自賛していました。でも、家族は私の犠牲者だったのですね。何にも知りませんでした。オヤジとして夫として、失格者です。老後は考え方を変えます」
「お父さん、そんなに御自分を責めないでください。会社がそんな働きを要求したのでしょ・・・」
文責 牟田武生