メール依存の女(4)

- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.32 -

 青春時代をバブル期に過ごした30代から40代前半の女性が子育てをしている。その頃流行った言葉の1つに3高(高学歴・高収入・高身長)がある。女性が結婚相手を選ぶ基準である。今の言葉で言うと、差し詰め「勝ち組の男をゲットしろ!」になるのかもしれない。
 彼女らにとって3高のご主人を掴み、自分も今流行の高収入でトレンディーな仕事を持つことが理想的な暮らしなのだ。勝ち組意識の若い母親にとって、美しく装い、子どもが居て、仕事もバリバリこなせ、料理も得意、ご主人も身奇麗でプチホテルのような家で暮らす生活が、30代の女性が読む女性誌が大流行のようである。

 この連載を読んだ知り合いの女性ジャーナリストに女性雑誌を読むことを勧められ、そこに掲載されている写真を見て「こんなに爪を長く伸ばし綺麗にネールアートして本当に家事が出来るの?」と思ってしまう。でも、現実に私の目の前に雑誌のモデルのように生活臭のない美貌の取締秘書で子持ちの女性がいる。彼女は30代の女性の憧れの的のような生活だが、彼女の唯一の悩みは子どもが学校に行かないことだと言う。

 ある程度以上の能力や学歴を持ち、損得勘定を働かせ要領よく振舞えば、現代女性が憧れる生活が仮想現実の社会では、手に入ることはできる。生理的な欲求や欲望も自分が好きな時にインターネット仮想現実で解消できるらしい。しかし、子育てになるとそうはいかない。
 子どもは動物的な感性や感覚で世界にひとりしかいない母を求め、自分の心を癒し安定させようとする。絶対に安心出来る心の故郷が母の愛だ。子どもがその愛を求め、母は自然体で応じ、母親として成長し、子どもに深い愛情を感じ、幸福な気持ちに満たされる。母と子の関係は神に近い関係でもあり「無償の愛」とも言える所以でもある。

 子どもにとって、父親と母親は同権であり平等ではあるが同質ではない。物が豊かに満たされる成熟社会はより良い質を求める時代でもある。質とはこころの豊かさを求める時代でもある。男も女も働き、社会の中で自己実現をして行く時代だが、幼い子どもは保育所で育つ。保育所にも競争化時代が訪れ、一流ホテルのようなきれいな保育所で、昼と夜、ご飯を食べ、着ている洋服まで保育士が洗うサービスを提供する大企業が運営する保育所まで登場している。お金さえ出せば、至れり尽くせりのサービスが提供される。

 勝ち組意識の親は特権意識でそのサ-ビス提供を受ける。商売感覚の至れり尽くせりのサービスで子と親は成長できるのか。親子の信頼感や愛情は育つのか。草花や愛犬・愛猫でも手を尽くすから愛情が生れるのではないか。人は物と商売感覚のサービスで育つのか。育たないとしたら、その歪みが家族の中で一番弱者の子どもに現れる。その現象が不登校になって現れる事例も多い。
 ネット依存の女は現代の憧れの女性ではあるが、母親にはなれない。彼女が母親になるためには、子どもと泥まみれになり子どもと苦楽を共にし、深い慈愛に満ちた感情から幸福感を得られなければ、人間としての成長も幸福も得られない。そのために夫は自分の全てのことを犠牲にしても母子の下支えをしなければならない。両親の深い愛情としての関わりの泥臭さの中で子どもは成長し、人間関係のスキルを磨いていく。昔の母親は誰に教わらなくてもそれが自然にできた。

文責 牟田武生