メール依存の女(2)

- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.30 -

 美貌でしかも理知的。仕事が出来るキャリアウーマンしか見えない女性に"お母さん"と意識して私は呼びかける。

 「息子さんはさびしいのです。たまに、お母さんと二人きりで家にいても、お母さんはパソコンでいつもメールしている。外出しても携帯でメール。お子さんはさびしいのです。おかあさんを独り占めにしたいのに、お母さんの心はメールの相手にいっている。」「お仕事そんなに忙しいのですか?」と聞く。

 女性は美しい項(うなじ)を誇示するかのように見せながら、重々しく口を開いた
 「先生、本当のことをカウンセリングですから言います。仕事場以外のメールは仕事ではございません。実はインターネットの仮想社会に恋人がいるのです・・・。現実社会では決して会うことがない恋人です。でも、先生はネット依存の本をお書きになっている専門家ですからお分かりになると思いますが、現実世界では主人を愛していますが、実はその人と仮想社会でサイバーセックスをしています。私には大切なひとなのです。」

 「なぜ、そうなってしまうのか・・・。そのことが子どもの不登校の遠因にもなっていることにも気がついていました。普通のカウンセラーのところではなく、先生の所に来たのも、そのことを暴かれると分かっていました。・・・怖かったけれど、自分の問題を解決したかったから、ここに来たのかもしれません。私は母親になれない女なのです。」

 「お子さんが寂しい気持ちでいることは分かっている。でも、子どもを受け止める愛情がない。母親に成りきれない女としての自分が存在するということでしょうか。」

 「たぶん、そうだと思います。母親になれない女なんているのでしょうか」
 「子どもとの日常生活の関わりの中で母親は作られていくのです。あなたの日常生活を聞くと、お子さんとの生活がほとんどありませんね。同時に妻としての生活もない。あるのは現実社会では恋人としての夫と仮想社会の彼の恋人。そして、華やかな仮想現実のようなお仕事。生活臭という臭いのない世界ですね。私には女優としてスクリーンの中のあなたを見ているような錯覚に陥ります。」

 「あなたの家で生活実像のあるのはお子さんだけです。ご主人もあなたも虚像の中で生活している。スマートで非常に格好が良く、現代的ですがどこか寂しく虚しい。そんな現実を埋め合わせる行為がメールであり、仮想社会の恋人とのサイバーセックスなのではないでしょうか」
 「サイバーセックスしている仮想社会の彼のことは、御主人は知っているのでしょうか」
 「知らないと思います。実は私たち夫婦セックスレスなのです」と悲しそうな表情を浮かべ答えた。
 「サイバーセックスって、私はやったことないからわからないのですが、メールやチャットでセクシャルなことを言い合い想像して楽しむことですよね。」
 「そうです。会ったこともない彼との想像の世界での脳内セックスです。」

文責 牟田武生