ネットゲーム 仮想と現実は隣に

- MSN-Mainichi INTERACTIVE No.5 -

 父親は息子の翼(仮名、中学3年)がネットゲームに夢中になる理由が分からなかった。パソコンを取り上げても、中古パソコンを買ってきて再び始めた。 父親は、再びパソコンを取り上げなければならないと考え、母親に「俺が説教するから、お前はパソコンを取り上げろ」と命じた。

 母親は、父親のやり方には「意味がない」と反対した。しかし、ネットゲームだけをやって一日を過ごす翼を見るとどうしてよいか分からなかった。
 パソコンがなくなった時の血相や、暴力的な言動を思い出すと、父親の言うなまけや単なるゲーム好きだけのようには思えない。アルコールや薬物依存の人のように病気とは思えないが、翼をネットゲームに向かわせるほかの力が何かあると感じていた。

 母親は一日中ゲームで過ごす翼を見るのは嫌だが、気持ちは理解してやりたかった。たとえ翼のことで父親と意見が対立しても仕方がない、と考えるようになった。
母親は翼が自分に暴力を振るった時、どんなことが原因だったのかを考えてみた。

 引き金になった言葉は何だったのかしら…。
「学校にどうして行かないのか」
「勉強わからなくなるよ」
「インターネットやめたら」
「ネットゲームの何が楽しいの」
「オタクと一緒だね」
「将来プー太郎になるよ」などの言葉を両親が言った時、暴力がひどかった。
学校のことや勉強のことと、インターネットやネットゲームに対して否定的なことを
親が言った時に暴力がひどくなる。

 いじめから不登校になり、ひきこもってしまったので現実社会で居場所を失い、
現実逃避としてインターネットの世界に逃げ込んだのではないかと母親は考えた。

 私のところに相談にきた母親は、「パソコンを取り上げずに現実の生活に戻すには、どうしたら良いか」と尋ねてきた。

 「お母さんの分析は正しいと思います。ただ気になるのは、現実逃避としてインターネットの世界に逃げ込んだというより、むしろ、求めたのでしょうね。息子さんは情緒が不安定なために不安に支配されてしまった子どもではなく、ごく普通のお子さんです。いじめから人が信じられなくなった。その結果が不登校やひきこもりとなったのです」と、私は答えました。

 さらに私は続けました。
「ただ、その状態でも、人と関わりたいと思うのは自然な感覚です。それを叶えてくれたのがゲームとチャットの楽しさを同時に味わえるネットゲームだったのでしょう。そこに、こころの居場所ができ、支えられたと感じた時にパソコンを取り上げられたから、(仮想社会でも)居場所を失ってしまうと感じ、死ね、と言われたのと同じだと思い、暴れたのですよ」。
 「ネットゲームを頻繁に行う子どもたちにとって、仮想社会は現実社会と離れたところにあるのではなく、隣接したところにあるのです」。

文責 牟田武生